コラム技術コラム2025.06.03

OAIBOX MAXを用いたMIMOの検証

OAIBOX MAXを用いたMIMOの検証

弊社ではオープンソース5G基地局であるOAIBOXを取り扱っています。OAIBOX MAXは、外付けのUSRPに対応しており、MIMOに対応したUSRPを用いることで高スループットなMIMO伝送の検証環境を迅速に構築することができます。本記事では、OAIBOX MAXを用いて2x2 MIMO伝送でUEへのダウンリンクの負荷実験を行った結果をご紹介します。

はじめに

OpenAirInterface(OAI)は3GPPの標準仕様に準拠する5G NR通信を実現可能なオープンソースソフトウェア(OSS)です。OAIはCN5G、gNB、UEの各機能が実装されているだけでなく、USRPのようなソフトウェア無線機を接続することで5G無線信号を送出することが可能です。

しかし、実際にOAIを実機で動作させるには様々なノウハウや経験が求められます。弊社が取り扱っているOAIBOXは、実験環境としてのOAIベース5G基地局を提供します。また、3GPP準拠の各種5G NR仕様機能を有するOAI上に所望のアルゴリズムを実装することで、自身の研究の検証環境として使用することも可能です。

図1. OAIBOX MAX

MIMOとは

MIMO(Multiple Input Multiple Output)は、複数の送受信アンテナを用いて信号を空間多重で伝送する技術です。MIMOは、伝送路がアンテナ間で独立していて、周波数帯域と送信電力が一定の場合、理論的にはアンテナ数に比例して通信速度(スループット)が増加します。つまり、一定時間で通信できるデータ量および、通信速度を向上させることができる伝送技術です。

OAIでは、線形プリコーディングを用いたMIMO伝送に対応する機能が実装されています。図2はOAIBOX MAXに実装されているOAIのMIMO処理フロー(ダウンリンク)を示しています。

図2. OAIにおけるMIMO処理フロー(ダウンリンク)

以下に、ダウンリンクにおけるMIMO伝送の送信処理手順をまとめます。

1. gNBがチャネル状態情報参照信号(CSI-RS)をUEに送信

2. UEはCSI-RSを基にSINRが最大になるようなプリコーディング行列Wを選択し、gNBに送信

3. gNBは送信信号xにプリコーディング行列Wを乗算し、アンテナごとの送信信号yとして空間多重化

実験準備

図3. OAIBOX MAXによる2x2 MIMO試験を行う際の機器構成図

OAIBOX MAXを用いてSISOおよび2x2 MIMOの5G通信実験を実施しました。以下に使用した機材をまとめます。

  • 基地局:OAIBOX MAX
  • 基地局SDR:USRP X410(別途用意)
  • 端末:Quectel RM500Q-GL(OAIBOX付属品)
  • 端末制御PC:ノートPC(別途用意)

上記の機材を付属のケーブルで接続します。また、本実験はMIMO環境で実施するため送信用と受信用で2つずつ計4つのアンテナを使用し、USRP X410とQuectelの間を2x2 MIMOで有線接続します。

また、通信諸元を以下にまとめます。

  • 周波数帯:n78
  • 帯域幅:60MHz
  • アンテナ構成:SISO、2x2 MIMO
  • TDDスロット構成:DDDSU

負荷実験

負荷実験を行う方法についてはこちらの記事をご覧ください。

MIMOに対応するUSRPを接続すると、OAIBOXのダッシュボード上でMIMO設定を変更できるようになります。この設定を変更するだけで簡単にMIMO環境における5G通信環境を構築することができます。

図4. OAIBOX MAXのダッシュボードでのMIMO設定画面

OAIBOX MAXとUSRP X410を使用し、SISOおよび2x2 MIMO環境においてダウンリンクの負荷実験を行った結果を示します。まずgNBをSISO設定で起動してトラフィックを流した後、一度gNBを止めて2x2 MIMO設定に変更後に再起動してトラフィックを流しました。

ビットレートは以下のような結果になりました

  • SISO:約230Mbps
  • 2x2 MIMO:約460Mbps

変調多値度と符号化率の組合せであるMCSの変化を見ると、SISOとMIMOの両方において設定値の中で最高値である27となっています。また、参照信号受信電力であるRSRPの変化を見ても、一貫して-60dBmとなっており、有線接続によって受信電力が安定していることが分かります。

OAIBOX MAXを使用して雑音も少なく安定した有線接続による5G通信環境においてMIMO伝送実験を行うと、ほぼ理論通りのSISOの2倍のスループットが得られることが分かりました。

図5. OAIBOX MAXとUSRP X410を用いてSISOおよび2x2 MIMOでダウンリンク方向のトラフィックを流したときのKPI変化を示すダッシュボード画面

最後に

本記事では、以下の内容をご紹介しました。

  • OAIBOX MAXとUSRP X410を使用して2x2 MIMO接続での疎通を確認した。
  • 2x2 MIMOではSISOに比べてスループットが2倍になった。

OAIBOX MAXを使用することで、MIMO接続による高スループットな5G通信環境を手軽に構築することが可能です。また、SISOとの比較検証などをリアルタイムで通信品質を見ながら検証できます。

ほかにもOAIBOXに関する記事はございますので、参考にしていただけますと幸いです。また、気になる点がございましたら、弊社相談窓口にお気軽にお問い合わせください。

参考文献

電子情報通信学会「知識ベース『知識の森』4群1編7章 MIMO伝送」(2025年4月24日アクセス)

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