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解析コンサルティングおよび電磁界解析ソフト「XFdtd」活用事例
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ハドロン宇宙国際研究センター
粒子線研究室
間瀬 圭一 助教
南極で始まったプロジェクト 「IceCubeコラボレーション」
10年以上前にスタートしたプロジェクト、「IceCubeコラボレーション」には、現在12カ国、48機関、計300名ほどの科学者が参画し、観測施設IceCubeを利用しています。観測の方法を簡単に言うと、南極の氷に穴を開け、高感度の光検出器などからなるデジタル光モジュールを埋め込み、ニュートリノを検出しようというものです。
"氷"の大きさが足りない!次世代設備「ARA」の建設
我々千葉大学のグループは、IceCubeで10^15eV(エレクトロンボルト)のニュートリノの観測に成功し、2012年の国際会議で発表しました。理論的に予言されていた高エネルギー・ニュートリノの実在を示したのは、世界初。ノーベル賞級の成果といっていいでしょう。 しかし、我々が見つけたいのは、さらにエネルギーの高い粒子で、他のニュートリノに比べ、地球に飛んでくる量が非常に少ないのです。この粒子をIceCubeが検出できるのは、確率的にせいぜい1年に1個。 この制約を解決するために、5年ほど前からいくつかの研究機関で協力して進めているのが、IceCubeの次世代検出設備「ARA(Askaryan Radio Array)」の建設です。
IceCubeとの違いを教えてください
ARAは検出装置の実効容積がIceCubeの10倍になり、目的の粒子を検出する確率も10倍になります。光は氷の中で減衰し、100mで消えてしまうため、IceCubeでは100m 間隔で検出器を埋める必要がありました。 一方ARA では、アスカリアン効果という電波の"干渉"を利用することで、検出器の設置は1km 間隔でよくなり、コストダウンも図れます。これだけ巨大な設備になると、コストの問題は避けて通れません。 KKEに今回解析をお願いしたアンテナの形状検討も、もともとは建設コスト削減の必要性が始まりでした。
アンテナの直径を細くして、コスト削減を目指す
検出器を設置するため、大量の熱湯を使って南極の氷を掘削します。IceCubeでは深さ2.5kmの穴を多数掘っており、穴を1本開けるのに5000万円もかかりました。このコストを下げるために浮上したのが、「穴の直径を小さくする」というアイデア。ARAは、当初直径15cmの穴にアンテナを入れてスタートしていましたが、それを10cmに、と。
そのアンテナの最適な形などを導き出すための解析を、KKEにほぼ全面的にやっていただきました。
千葉大学では、以前からアンテナ性能評価に電磁界シミュレーションソフト「XFdtd」を導入し、その結果とデータの比較などを行っていました。そして今回、アンテナを細くするにあたって詳しい人間に相談したところ、「それならKKEに相談してみたらどうか」とアドバイスされました。
KKE にアンテナの小型化解析を依頼したのが、2016年1月。南極は夏場しか屋外作業ができないため、10月には製品を現地に送りたい。逆算すると、3月までに形状デザインが出来上がっていないと難しい。結果は、無事スケジュールに乗りました。報連相も丁寧で、「今どうなっているのか」を正確に知ることができましたし、安心して任せられた、というのが率直な感想です。
宇宙の進化の研究進展に期待
現在、シミュレーションを重ねた3次元CADデータを基に、メーカーが新しいアンテナを製作中で、2016年秋には完成の予定。それを私たちでキャリブレーション(感度較正)したうえで、南極に送ります。今年は、私も初めて現地に行くので、実験が楽しみです。
本プロジェクトに日本から参加しているのは、千葉大学だけです。大学からの期待も大きいのではないですか?
千葉大学は「宇宙」の研究に本腰を入れていて、2012年には、大学院理学研究科の附属機関として「ハドロン宇宙国際研究センター」を開設しました。南極での成果などを通じて、本センターの世界での存在感も徐々に高まってきたと感じています。できるだけ早く、最高エネルギー宇宙線由来のニュートリノを発見して、さらに世界をあっと言わせたいですね。
最後に、当社への期待などがありましたらお聞かせください
サポートには十分満足です。今後も解析ソフトは使い続けようと思っていますし、研究の進展によってまた依頼が発生するかもしれません。そのときはまた、完璧なフォローを期待しています。