お客様事例電磁界解析シミュレーション

解析コンサルティングおよび電磁界解析ソフト「XFdtd」活用事例

プロフィール
千葉大学大学院理学研究科
ハドロン宇宙国際研究センター
粒子線研究室
間瀬 圭一 助教
千葉大学大学院理学研究科 ハドロン宇宙国際研究センター 粒子線研究室
 ニュートリノの観測を行う国際プロジェクトが今、南極で進行中です。日本から唯一参加する千葉大学大学院理学研究科の間瀬圭一助教が目指すのは、「最高エネルギー宇宙線由来のニュートリノ」を見つけること。先頃その実験に欠かせないアンテナを開発し、2016 年の冬(南極では夏)に南極で試験する運びとなっています。今回は間瀬先生に、どんな研究なのか、お話を伺いました。
サマリー
  • 千葉大学は南極で最高エネルギー宇宙線由来のニュートリノを捕らえる国際プロジェクトに参画
  • 実験で必要なアンテナの建設コストを削減するため、小型化解析を構造計画研究所に依頼
  • 解析サポートにより設計したアンテナで、世界初の観測を目指す
  • 南極で始まったプロジェクト  「IceCubeコラボレーション」

     10年以上前にスタートしたプロジェクト、「IceCubeコラボレーション」には、現在12カ国、48機関、計300名ほどの科学者が参画し、観測施設IceCubeを利用しています。観測の方法を簡単に言うと、南極の氷に穴を開け、高感度の光検出器などからなるデジタル光モジュールを埋め込み、ニュートリノを検出しようというものです。


    基地付近のパノラマ風景

    "氷"の大きさが足りない!次世代設備「ARA」の建設

     我々千葉大学のグループは、IceCubeで10^15eV(エレクトロンボルト)のニュートリノの観測に成功し、2012年の国際会議で発表しました。理論的に予言されていた高エネルギー・ニュートリノの実在を示したのは、世界初。ノーベル賞級の成果といっていいでしょう。 しかし、我々が見つけたいのは、さらにエネルギーの高い粒子で、他のニュートリノに比べ、地球に飛んでくる量が非常に少ないのです。この粒子をIceCubeが検出できるのは、確率的にせいぜい1年に1個。 この制約を解決するために、5年ほど前からいくつかの研究機関で協力して進めているのが、IceCubeの次世代検出設備「ARA(Askaryan Radio Array)」の建設です。

    IceCubeとの違いを教えてください

     ARAは検出装置の実効容積がIceCubeの10倍になり、目的の粒子を検出する確率も10倍になります。光は氷の中で減衰し、100mで消えてしまうため、IceCubeでは100m 間隔で検出器を埋める必要がありました。 一方ARA では、アスカリアン効果という電波の"干渉"を利用することで、検出器の設置は1km 間隔でよくなり、コストダウンも図れます。これだけ巨大な設備になると、コストの問題は避けて通れません。 KKEに今回解析をお願いしたアンテナの形状検討も、もともとは建設コスト削減の必要性が始まりでした。

    アンテナの直径を細くして、コスト削減を目指す

     検出器を設置するため、大量の熱湯を使って南極の氷を掘削します。IceCubeでは深さ2.5kmの穴を多数掘っており、穴を1本開けるのに5000万円もかかりました。このコストを下げるために浮上したのが、「穴の直径を小さくする」というアイデア。ARAは、当初直径15cmの穴にアンテナを入れてスタートしていましたが、それを10cmに、と。

     そのアンテナの最適な形などを導き出すための解析を、KKEにほぼ全面的にやっていただきました。


    最適化前と最適化後のアンテナ形状イメージ

     千葉大学では、以前からアンテナ性能評価に電磁界シミュレーションソフト「XFdtd」を導入し、その結果とデータの比較などを行っていました。そして今回、アンテナを細くするにあたって詳しい人間に相談したところ、「それならKKEに相談してみたらどうか」とアドバイスされました。

     KKE にアンテナの小型化解析を依頼したのが、2016年1月。南極は夏場しか屋外作業ができないため、10月には製品を現地に送りたい。逆算すると、3月までに形状デザインが出来上がっていないと難しい。結果は、無事スケジュールに乗りました。報連相も丁寧で、「今どうなっているのか」を正確に知ることができましたし、安心して任せられた、というのが率直な感想です。

    宇宙の進化の研究進展に期待

     現在、シミュレーションを重ねた3次元CADデータを基に、メーカーが新しいアンテナを製作中で、2016年秋には完成の予定。それを私たちでキャリブレーション(感度較正)したうえで、南極に送ります。今年は、私も初めて現地に行くので、実験が楽しみです。

    本プロジェクトに日本から参加しているのは、千葉大学だけです。大学からの期待も大きいのではないですか?

     千葉大学は「宇宙」の研究に本腰を入れていて、2012年には、大学院理学研究科の附属機関として「ハドロン宇宙国際研究センター」を開設しました。南極での成果などを通じて、本センターの世界での存在感も徐々に高まってきたと感じています。できるだけ早く、最高エネルギー宇宙線由来のニュートリノを発見して、さらに世界をあっと言わせたいですね。

    最後に、当社への期待などがありましたらお聞かせください

     サポートには十分満足です。今後も解析ソフトは使い続けようと思っていますし、研究の進展によってまた依頼が発生するかもしれません。そのときはまた、完璧なフォローを期待しています。

    (取材日:2016年6月)

    導入された製品
    多様な電磁波問題をシミュレーションするための強力なソリューションを提供する3次元電磁界解析ソフトウェアです。

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