- Home
- CASE STUDY
- 三次元電磁界解析ツール「XFdtd」導入事例
三次元電磁界解析ツール「XFdtd」導入事例
- プロフィール
- 株式会社サーキットデザイン
技術部 エンジニア 第1級陸上無線技術士 大澤 悠 氏
総務部 栁澤 良樹 氏
小暮技術士事務所 技術士/工学博士 小暮 裕明 氏
サルやシカなどによる農作物の食害が深刻化している。長野県安曇野市に本社を置く株式会社サーキットデザインは、それらの動物に発信機を組み込んだ首輪を装着し、GPSを活用して活動範囲や習性を探るシステムを開発、すでに自治体などへの導入が始まっている。
製品開発にあたっては、設計段階で、構造計画研究所(KKE)が販売する電磁界解析ソフト『XFdtd』が採用された。その意義、成果について、総務部の栁澤良樹氏、技術部の大澤悠氏、同社に解析ソフトを推薦した小暮裕明氏(小暮技術士事務所、工学博士)に話をうかがった。
日本で初めて、獣害予防の電波法適合製品を開発
製品の概要を教えてください
当社は、無線技術に特化したファブレス(※1 工場を所有せずに製造業としての活動を行う企業のこと)の開発企業で、自動車の無線エンジンスターターや、重機操作などの産業用無線ユニット、無線モジュールが主力商品となっています。「鳥獣被害対策用テレメトリ発信器」を開発したのは、2009年です。前年の2008年に日本の電波法が改正されて、有害動物の駆除・追払いや、逆に希少動物の保護、生態調査を目的に、142MHz帯の周波数が「動物用」に割り当てられました。それを受けて開発したもので、この分野では日本で初めての製品になります。
ちなみに、海外製の同種製品が以前からあったのですが、それらは日本の電波法には適合せず、使用したい自治体などが、補助金申請をすることはできませんでした。当社の製品は、そうしたボトルネックも解消しました。
発売以来、技術面での改良も進んでいます。従来は「今、動物がどこにいるのか」を探るだけでしたが、現在最も力を入れているのが、「アニマルマップ」です。基地局を設置して動物の首輪に付けた発信器との間で通信し、その結果をクラウドサーバーに上げて、移動の軌跡をPCやスマートフォンの画面上に表示することができます。
それによって、どんなことがわかるのでしょう?
例えば、どこで寝ているのか、どのあたりに多く出没するのか、あるいは行動範囲はどれくらいなのか。そうした情報は、効果的な食害対策を講じるうえで、非常に有効になってきます。首輪や基地局というハードからマッピングというソフトまで、1つのシステムとして形にしたのも、当社が初めてです。
「使いこなせるか」という懸念も杞憂に
『XFdtd』を導入された理由をお聞かせください
アニマルマップを本格的に展開したい、あるいは後段で述べますが、この技術を動物だけでなく「人」にも応用したいと考えていました。社内で議論を進める中で、そのためにはハードな条件下でも電波を発信できる「多種多様なアンテナ」の検討、開発が鍵だという話になりました。
その際、従来のように熟練の技術者が勘や経験則を頼りに設計するのでは不十分だろう、という結論になりました。経験則に客観的な裏付けはなく、その技術者の頭にない「新しいもの」は出てきません。また、試行錯誤ばかりしていたのでは、実用化までに長い時間がかかってしまいます。そこで、アンテナからの電波の出方をシミュレーションできるソフトを、以前からお付き合いのあった小暮先生に紹介していただき、試してみることにしたのです。
具体的には、どんな条件を調べたのでしょうか?
その点は、私(小暮氏)から説明しましょう。問題は、アンテナを筐体の中にすっぽり収める必要があったことです。アンテナが外に出ていると、サルなどは手で引っ張って取ってしまう可能性があります。移動の途中で、何かに引っ掛かって損傷するかもしれない。そうしたリスクを避ける必要がありました。
しかし、アンテナを何かで覆うという行為は、私たち電波の専門家に言わせると、とても無茶な振る舞いでもあります。外に突き出ていれば、与えた電力はフルに電波になって飛んでくれるわけですが、内蔵された途端にそうはいかなくなります。必要な電波を外の空間に発信するために、クリアすべき技術的な課題がどんどん出てくるのです。先ほど話が出たように、これを経験則で解決するのは、無理な相談です。
『XFdtd』を使えば、どんな場合にどれだけの電波が発信されるのか、事前に「測る」ことができます。コンピュータに実物と同じ形、寸法、材質の首輪のデータを入れ、内蔵されるアンテナの形状や本数といった条件を様々に変えながら、検討を加えていくわけですね。同種の解析ソフトは他にもありますが、この製品の大きなメリットは、3次元解析ができることです。作ろうとするものが基板のように薄いものではなく立体ですから、今回はこれが適しているだろうと考えて、推奨しました。
実際に使用してみた感想はどうでしたか?
実は、当初「オーバースペックではないか」という意見もありました。3次元解析はいいけれど、自分たちに使いこなせるだろうか、と。しかし、小暮先生やKKEの技術サポートも受けながら導入すると、想像以上に使い勝手はよく、製品開発の大きな力になっています。このソフトのいいところは、試作品を作る前に、結果が視覚的に確認できること。「これが最良の状態だ」ということを、現場のみんなが納得して先に進むことができますし、お客さまへのプレゼンにも説得力が生まれます。
加えて、社内の技術継承にも効果を発揮しそうな点も、嬉しい副産物でした。ベテランの蓄積したものを後の世代の技術者に伝えていくことは、簡単な作業ではありません。当社でも若手技術者の育成が大きなテーマになっていたのですが、いろんな知恵が"見える化"できることで、その大きな武器になってくれるのではないかと、期待しています。
登山者の遭難対策にも開発を進める
この分野の、今後の展望をお聞かせください
先述したアニマルマップは、すでに全国約15地区で40基ほど導入されています。今後は動物の種類や地理的条件などに見合った開発を進めつつ、本格展開を図っていきたいと考えています。また、マッピングにとどまらず、それに食害予防のための電気柵や罠を監視する機能などを組み合わせたシステムの開発に向け、実証実験に入っています。
同時に、同じ仕組みを使った登山者用の製品開発も行っています。このシステムでは、登山者に発信器を持ってもらい、山小屋などに設置した基地局で受信して、動きをトレースします。下山が遅れたり、明らかに異常な動きが認められたりした場合には、速やかに場所を特定し、救助に向かうことができるというもので、やはり実験段階にあります。
さらに、まだ詳しくはお話しできないのですが、『XFdtd』の助けを借りた、まったく別の分野での製品開発も検討しています。KKEには、引き続き技術面などでのフォローをお願いしたいと思っています。