レイトレース法と機械学習を合わせた電波伝搬評価
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背景と目的
背景
- 次世代移動通信、IoTなど、高速かつ高品質な無線通信環境を実現するには伝搬損失の推定が重要である。
- 伝搬損失推定には測定値を基にした奥村・秦式[1]やレイトレース法などがある。 また最近では深層学習を使った研究も行なわれている[2][3]。
目的
- レイトレース法と深層学習を合わせた伝搬損失推定を行い、測定値と比較する。
- 以下の検討では、2019年3月電子情報通信学会総合大会の電波伝搬モデリングコンペティション(以下、伝搬コンペ)で配布された建物データおよび伝搬損失の測定データを用いる[4]。
使用する解析ソフト
- 3次元電波伝搬シミュレータ Wireless InSite を用いたレイトレース法による電波伝搬シミュレーションを行い、 そこで得られたシミュレーション結果を深層学習の入力として使用する。
測定について
- 測定環境は北九州市小倉駅周辺の市街地環境(図1)である。
- 移動局は測定車であり、道路上を走行して測定する。
- 測定コースは40本(図2)あり、コース上で10m間隔の伝搬損失を測定する。 図2の青色のコースを用いて伝搬損失推定のモデルを作成し、赤色のコースを用いてモデル精度を評価する。
- 表1に測定条件を示す。
図1:測定環境(北九州市小倉駅周辺、建物高さで色分け)
図2:測定コース(全40本)
周波数 | 1298MHz |
---|---|
基地局高さ | 12.5m |
移動局高さ | 1.5m |
移動局短区間長 | 10m |
アンテナ | 標準ダイポール |
シミュレーションについて
- レイラウンチング法に基づいたレイトレース法を用いる。
- 建物データには伝搬コンペで提供されたデータを用いる。地形の起伏は考慮しない。
- 表2にシミュレーション条件を示す。
周波数 | 1298MHz |
---|---|
基地局高さ | 12.5m |
移動局高さ | 1.5m |
移動局間隔 | メッシュ状に2m間隔 |
アンテナ | 標準ダイポール、垂直偏波 |
出射角度 | 0.1度 |
受信半径 | 3.5m |
最大反射回数 | 3回 |
最大回折回数 | 2回 |
最大透過回数 | 0回 |
深層学習のアプローチ
ネットワーク構成
- 深層学習の構成は先行研究[2]で提案されたCNN+FNNのモデルを基に検討した。
- CNN部で畳み込み演算を繰り返し行い、FNN部で伝搬損失を推定する。
図3:ネットワーク構成
マップデータ
- 移動局を中心とした2m間隔の64x64メッシュのデータをマップデータとしてCNN部の入力に利用する。
- シミュレーション結果以外のマップデータは、基地局位置、移動局位置、建物情報の3種類とする。
- シミュレーション結果のマップデータは、遅延スプレッド、パス電力を掛けた平均出射角・平均到来角(仰角θおよび水平角Φ)の計5種類とする。
- 以上の合計8種類のマップデータを組み合わせることで伝搬損失推定のためのモデルを作成する。
マップデータの組合せ選定
- 伝搬損失の推定値と測定値の誤差が最小となるマップデータの組み合わせを選定する。
- 図2の青色のコース(コース5、6、19、24、27、32を除く計34本)を用いて組み合わせ選定を行う。
- 組み合わせ選定を行うにあたりコースデータをコース単位で「学習・検証」フェーズと「評価」フェーズに分割する。 データ点数が多くかつ特徴があるコース1、2、7、9、29のデータを「評価」フェーズで用い、それ以外のコースデータを「学習・検証」フェーズで用いる。
- 最大5マップとなるようにマップデータを組み合わせ、誤差(RMSE)が最小となる組み合わせを選定する。
- 表3に「評価」フェーズにおける組み合わせごとのRMSEの結果を示す。 基地局からの距離、移動局からの距離、建物高さに遅延スプレッドを加えた組み合わせにおいてRMSEは最小(6.52dB)となった。 本組み合わせとシミュレーション結果を用いない組み合わせ(順位16)を比較するとRMSEに1.23dBの改善が見られた。 以降の検討では本組み合わせを使用する。
順位 | RMSE[dB] | 入力マップ組み合わせ | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
基地局からの距離 | 移動局からの距離 | 建物高さ | 遅延スプレッド | 出射角Φ | 到来角Φ | 出射角θ | 到来角θ | ||
1 | 6.52 | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||
2 | 6.89 | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||
8 | 7.24 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |||
10 | 7.46 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |||
16 | 7.75 | ○ | ○ | ○ | |||||
19 | 7.83 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
伝搬損失推定モデルの妥当性確認
- 伝搬損失推定モデルの妥当性確認では、「学習・検証」フェーズのデータには図2の青色コース計34本を用い、「評価」フェーズのデータには図2の赤色コース計6本を用いる。
- 「学習・検証」フェーズではデータを9:1に分割し、90%のデータで学習、10%のデータで検証を行い、検証データに対して伝搬損失推定の精度が高いモデルを「評価」フェーズで使用する。
- 「評価」フェーズでは、「学習・検証」フェーズからの学習済みモデルと、「評価」用コースデータを用いて誤差(RMSE)を評価し、伝搬損失推定モデルの妥当性を確認する。
- 図4に「評価」用コースデータごとの基地局と移動局距離に対する伝搬損失の測定値と推定値を示す。
- 表4に「評価」用コースデータごとのRMSEを示す。「評価」用コースデータ全体に対するRMSEは4.20dBであった。
コース番号 | 測定数 | RMSE[dB] |
---|---|---|
5 | 45 | 5.06 |
6 | 18 | 4.22 |
19 | 30 | 2.09 |
24 | 22 | 3.51 |
27 | 5 | 3.23 |
32 | 6 | 7.06 |
図4:「評価」用コースデータごとの基地局と
移動局距離に対する伝搬損失の測定値と推定値
まとめ
- レイトレース法と深層学習を合わせた伝搬損失推定を行った。
- シミュレーション結果を深層学習の入力とすることで伝搬損失推定モデルの精度に改善が見られた。
- 伝搬損失推定の誤差(RMSE)は「評価」用コースデータ全体に対して4.20dBであった。
- 電波伝搬シミュレーションには、3次元電波伝搬シミュレータ Wireless InSite を用いた。
参考文献
- [1] 細矢 良雄(監),"電波伝搬ハンドブック",リアリーズ社,1999,pp.203-207.
- [2] 今井 哲朗,浅井 孝浩,"CNN を用いた深層学習による電波伝搬推定の一検討ー入力するマップパラメータと推定精度の関係ー,"信学技報,AP2018-89,pp.1-6,Oct. 2018.
- [3] 久野 伸晃,佐々木 元晴,鷹取 泰司,"[伝搬モデルコンテスト]深層学習を用いた仮想都市環境における伝搬損失特性の推定,"信学技報,AP2017-164,pp.75-79,Jan. 2018.
- [4] 今井 哲朗,岩井 誠人,市坪 信一 ,"電波伝搬モデリングコンペティ ションの取組について",信学技報,AP2019-2,pp.7-12.,May.2019
- [5] チン ギルバート シー,岩﨑 慧,ルキタ リキセニア,岡村 航,吉敷 由起子,"レイトレース法と深層学習を合わせた市街地の伝搬損失推定に関する一検討",2019 信学総大,BS-1-6,pp.7-12.,Mar.2019
- [6] 岩﨑 慧,チン ギルバート シー,ルキタ リキセニア,岡村 航,吉敷 由起子,"深層学習の入力データにレイトレース法の結果を考慮した伝搬損失推定の検討",A・P研,(25)A・P,Jul. 2019
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