Home Column WaveFarerの解析性能検証~球のRCS解析~ コラム技術コラム2024.07.01 WaveFarerの解析性能検証~球のRCS解析~ はじめに 弊社では、主にレーダー等の電波の散乱現象によるシステムを対象とした電波伝搬解析ツールである「WaveFarer」というソフトウェアを扱っています。 WaveFarerは幾何光学近似であるレイトレース法をベースに物理光学近似を組み合わせることで、高速・高精度なミリ波帯の解析が行えます。 WaveFarerについて興味を持ってくださった方からすると、「WaveFarerは正確に解析できるのか?」というところは疑問になると思います。 そこで、今回のコラムでは、WaveFarerの解析性能を検証してみたいと思います。 シミュレータの正確さを検証する際には規範問題が広く扱われております。まず、手始めに完全導体球のRCS(Radar Cross Section、レーダー反射断面積)解析の事例を紹介いたします。 検証の諸元 WaveFarerのRCS解析の精度検証に当たり、完全導体球を用いて検証しようと思います。 完全導体球のモノスタティックRCSの理論値は解析的な解を導出することができ、その値は、 πa2 [m2 ] となっております。 この値を今回のシミュレーション諸元に置き換えると24.97 dBsmとなります。 (RCSは単位「dBsm」で表されることが多く、aに10 mを代入して、1 m2 = 0 dBsmで変換しています。) よって、今回のシミュレーションのベンチマークとしては、どの角度からRCSを解析した場合でも、RCSが安定して理論値 24.97 dBsm に近い値となっているかどうかがポイントとなります。 シミュレーションの実施 以下の図の諸元でシミュレーションをしてみたいと思います。 まず、半径10 mの完全導体球のモデルをWaveFarerで作成します。次に波源として、水平偏波の平面波を入射を設定します。 平面波の入射角はTheta = 90度で固定とし、Phiを0度から180度まで5度刻みで動かして、モノスタティックRCSを解析します。 WaveFarerによる計算においては、球体のような滑らかな面であっても、レイトレーシング法による計算の実施に当たり、球体は多面体として近似されます。 よって、物体の面をどの程度の細かさにするか、というのは非常に重要なパラメータになってきます。特に球体は、どのくらいの面の大きさで球を構成するかで球の形が大きく変わってきます。 また、WaveFarerでは物理光学近似という解析手法が用いられています。 物理光学近似では、面に入射する電界の入射角によって、面に誘起される電流値が決まり、その電流値から任意の方向へ放射する散乱界を計算します。 散乱界の計算に当たっては面積分が用いられますので、面をどの程度細かくするか、というのが非常に重要になります。 今回はWaveFarerのベンチマークテストということで、「面が粗い球」「面がやや細かい球」「面が細かい球」の3つを用意し、ベンチマークをテストしてみることにしました。 「粗い」球は、あまり滑らかなモデルではなく角が目立つ一方、「細かい」球は拡大しないと分からない程度に球の面が滑らかになっています。 (※「細かい」球や「粗い」球について、面の大きさや正球との公差など、モデルが実際にどのくらいの面の大きさにすれば良いか気になる方もいらっしゃるかと存じます。ユーザー様へは技術サポート等でご案内させていただいておりますが、WaveFarerにご興味のある方は、ぜひ体験版をご利用いただき、チェックしてみてください。 RCS解析結果の確認 球のRCSの結果は以下の図のようになりました。 この図は平面波の入射角度に対するモノスタティックRCSの結果を極座標でプロットしています。緑が「粗い」、黄色が「やや細かい」、赤が「細かい」の結果を示しています。 グラフから、「粗い」モデルでは、平面波のモデルの凹凸に応じてモノスタティックRCSの結果が極端に変わってしまっていることが分かります。 一方、「細かい」モデルはRCSの理論値である24.97 dBsmから概ねプラスマイナス1 dBの範囲に収まっており、非常に精度良くRCS解析ができていることが確認できました。 おわりに 今回のコラムでは、WaveFarerの解析性能を球のRCS解析を用いて紹介してみました。 完全導体球の解析については、概ね理論値通りの結果を出せそうなのがわかりましたが、球体の面を細かくする必要があり、曲面のモデル化についてコツがあることがわかりました。 球体以外にも、RCSの理論値を計算できる物体はありますので、他の規範問題についても今後紹介してみたいと思います。 ここまでご覧いただき、ありがとうございます。 WaveFarer紹介ページ WaveFarer電波伝搬解析 一覧へ戻る 前の記事へ オープンソース5G基地局 「OAIBOX」で5G通信研究プラットフォームを構築 次の記事へ メタサーフェス反射板の反射特性を反映したレイトレース法による電波伝搬シミュレーション 最新記事 2025.08.12 ITU-R SG3関連会合への参加活動のご紹介 (Participation in the annual activities of ITU-R Study Group 3) 2025.07.24 【新機能のご案内】Wireless InSite 移動体機能 動的な無線環境のシミュレーションへ 2025.07.22 もう「圏外」はない?スマホが直接“宇宙”とつながる「衛星ダイレクト通信」の未来と課題 2025.07.07 OAIBOX MAXを用いたチャネルエミュレータでMIMOを検証 2025.06.03 OAIBOX MAXを用いたMIMOの検証 関連記事 2025.05.07 電磁界解析による衛星アンテナの最適設計 2022.12.19 任意地点、時刻のGNSS信号を自由に模擬GNSSジェネレータ -SDR-SATの開発現場より- 2024.07.19 OAIBOX Open RANのご紹介 2024.09.09 電波を見える化 ~フレネルゾーンの可視化~ 2024.02.15 自動車用無線技術におけるシミュレーション技術とは?無線シミュレーション適用例を紹介