コラム技術コラム2023.08.01

28GHz無線通信実験(その2) 
~OSSベースのミリ波5G基地局~

28GHz無線通信実験(その2) <br>~OSSベースのミリ波5G基地局~

 前回のコラムでは、OpenAirInterface(OAI)とソフトウェア無線(SDR)、ビームフォーミング技術を掛け合わせた28GHz無線通信の実験環境についてご説明しました。今回はこの実験環境での実験方法と結果について紹介します。

実験準備(デバイスドライバの作成とビルド)

 本実験環境の基地局はDU(Distributed Unit)とRU(Radio Unit)で構成されており、DUと端末(UE)にはOAIを使用しています。OAIはGitLabで管理されており、詳細な説明やビルド方法はopenairinterface5Gリポジトリ内のREADMEを参考にしてください。ここでは公式資料からの変更点のみ説明します。
 今回RUとして使用するソフトウェア無線機HTG-ZRF8は、既存のOAIでの使用が想定されていません。そのため、DU-RU間の通信部分の開発だけでなく、OAIとHTG-ZRF8の間をつなぐインターフェース部分の開発も必要となります。弊社では、OAIで既に実装されているNI社のUSRPとのインターフェースであるusrp_lib.cppを参考に開発を行いました。
 OAIでは、RF部として使用するデバイスを”-w”コマンドを使ってビルド時に指定します。例えば、USRPを使用するのであれば”-w USRP”とビルド時に入力します。既存のOAIでの使用が想定されていないSDR端末を用いる場合、コマンドオプションの中に新たな指定先として追加するのが一番簡単でしょう。弊社の場合、KHDというオプションを追加し、”-w KHD”と入力することで、OAIとHTG-ZRF8の間をつなぐインターフェースkhd_lib.cppがビルドされ、起動時に実行されるようにしました。
各機器におけるビルド手順は以下の通りです。
  ・DU: RUとの通信部分のソースコードのビルド+”-w KHD”を含めてOAIをビルド
  ・RU: DUとの通信部分のソースコードのビルド
  ・UE: “-w USRP”を含めてOAIをビルド

動作実験

 前節で述べたビルドが完了すると、いよいよ動作実験です。動作実験では、OAIの実行時に”-d”コマンドを付けることで、GUI(SCOPE画面)を通じて送受信信号の様子を確認できるようになります。実験環境における実行時のUL/DL SCOPE画面を図 1に示します。右下のPUSCH、PDSCHのIQ出力を見るとQPSK信号が確認できます。QPSK信号が放射状に伸びているのはイコライザやAGCが正常に機能せず、振幅レベルの調整がうまくできていないためと思われます。この点については、更なる検討・対応が必要と考えています。

図 1 左: DUにて表示しているUL信号の様子 右: UEにて表示しているDL信号の様子

 信号を受信していることが確認できたので、次は疎通実験です。OAIを実行中にipコマンドを用いると、図 2のようなoaitun_enb(ue)インターフェースが、10.0.1.1(2)/24のipアドレスで生成されます。このアドレスを使ってpingを送った結果を図 3に示します。図 3はDUからUEへのDL方向のpingですが、同様にUEからDUへのUL方向のpingも成功しました。これにより、ミリ波対応ハイブリッドビームフォーマSDR基地局と、同じくミリ波対応SDR端末の間で、双方向の5G無線通信に成功していることが確認できました。同様にiperfを用いたパケット通信、vlcを用いた動画送信など様々な疎通実験を行うことができます。

図 2 OAIの起動で設定されるIPアドレス

図 3 pingコマンドによるUEとの疎通確認

最後に

 今回は、OAI×SDR×ビームフォーミング技術でミリ波5G基地局を構築し、28GHz無線通信実験を行いました。OAIを使った実験や、ミリ波5G実験局開発の際は参考にしていただければ幸いです。

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