コラム技術コラム2023.07.12

DXのための無線通信システム検討法 2/2

DXのための無線通信システム検討法 2/2

無線通信システムの定量的な比較

本連載では、DX化・スマート工場・スマートオフィスなどで話題に上がるローカル5Gと、Wi-Fi 6E(6GHz帯)の二者の定量的な比較を通じて、無線通信システム検討の手法を紹介しています。

なお、本連載の比較では、ローカル5Gは2つある周波数帯「Sub6帯」と「ミリ波帯」のうち、「Sub6帯」を対象としています。

第1回では検討の題材であるローカル5G、Wi-Fi 6Eの二つの無線通信システムと、今回の検討で電波の届き方をシミュレーションする方法である、レイトレース法の解説をしました。

今回は、実際にレイトレース法を用いてローカル5GとWi-Fi 6Eの電波の届き方を定量的に比較します。電波の届き方を調べるときに重要な要素として、周囲の環境や送信電力、周波数、使用するアンテナが挙げられます。

これらの条件のうち、今回は以下の二つの条件で比較します。

  1. ローカル5GとWi-Fi 6Eそれぞれの周波数で、ほかの条件は同一での比較
  2. ローカル5GとWi-Fi 6Eのそれぞれ周波数・送信電力で、ほかの条件は同一での比較

レイトレース法による電波伝搬シミュレーションにはWireless InSiteを使用しました。

比較1: ローカル5GとWi-Fi 6Eの周波数による電波の届き方の違い

以下のように周波数だけを変え、ほかの条件はすべてWi-Fi 6Eにそろえて電波の届き方をシミュレーションし、比較します。比較条件を表1に示します。

表1:シミュレーションに使用したローカル5GとWi-Fi 6Eの通信システムの諸元比較
比較項目 説明 ローカル5G(A) Wi-Fi 6E
中心周波数 使用する電波の周波数帯域における中央の周波数
高い周波数ほど直進性が強くなり、障害物に弱くなる。
4650MHz
(Sub6帯)
5955MHz
帯域幅 使用される電波の周波数の幅。広いほど多くの情報を送れる。 100MHz
送受信アンテナ 電波を放射する方向や強さを決定する。一部方向に集中して強く電波を放射するなど、様々な機能のものがある。今回は水平面に均等に電波(垂直偏波)を放射するアンテナを使用した。 半波長
ダイポールアンテナ
(最大利得: 0 dBi)
送信電力 送信機がアンテナに送る電力。高いほど遠くまで電波が届きやすい。
法律で定められた
Wi-Fi 6Eの屋内利用における最大値を使用。
なお、
ローカル5G基地局の屋内利用における最大値は48dBm/MHzであり、今回は帯域幅を100MHzとしている。
そのため送信電力の最大値は68dBmとWi-Fi6Eに比べて高く、比較2では電力も変えた比較を行う。
23.01dBm

 

以上の条件で屋内における電波伝搬シミュレーションを行いました。

 

図1. 中心周波数が異なる電波の届き方の比較電波の届き方:強い 赤→黄→緑→青→紺 弱い)

各地点にどれだけ電波が届いたかを図1.に示します。各地点に届いた電波の強さをあらわす受信電力をヒートマップで可視化しました。カラーバーで示しているように、赤色に近いほど強い電波が届いていること、紺色に近いほど弱い電波が届いていることを示しています。カラーバーは電波法関係審査基準で定められるカバーエリア(通信可能なエリア)と判定できる最低受信電力(-84.6dBm)を青・紺の境界とし、20dBm間隔で色が変わっています。周波数以外の条件をそろえると、周波数が低いローカル5Gのほうが壁を回り込んだり透過したりできる分、わずかに壁の影などで受信電力が高いです(図のA点周辺)。しかしながら、今回比較しているローカル5G(Sub6帯)の場合、周波数はWi-Fi 6Eと比較的近いので、両者ともに同じくらい強い電波が届いていることがわかります。

 

比較2: ローカル5GとWi-Fi 6Eの中心周波数と送信電力による電波の届き方の違い

ローカル5Gは、Wi-Fi 6Eよりも強い送信電力を使用できます。そこで、ローカル5GとWi-Fi 6Eそれぞれで法的に可能なもっとも強い送信電力を使用した場合を比較しました。比較条件を表2に示します。

表2:シミュレーションに使用したローカル5G(最大送信電力)とWi-Fi 6Eの通信システムの諸元比較
比較項目 説明 ローカル5G(B) Wi-Fi 6E
中心周波数 使用する電波の周波数帯域における中央の周波数
高い周波数ほど直進性が強くなり、障害物に弱くなる。
4650MHz
(Sub6帯)
5955MHz
帯域幅 使用される電波の周波数の幅。広いほど多くの情報を送れる。 100MHz
送受信アンテナ 電波を放射する方向や強さを決定する。一部方向に集中して強く電波を放射するなど、様々な機能のものがある。今回は水平面に均等に電波(垂直偏波)を放射するアンテナを使用した。 半波長
ダイポールアンテナ
(最大利得: 0 dBi)
送信電力 送信機がアンテナに送る電力。高いほど遠くまで電波が届きやすい。
法律で定められた
Wi-Fi6Eの屋内利用における最大値を使用。
なお、
ローカル5G基地局の屋内利用における最大値は48dBm/MHzであり、今回は帯域幅を100MHzとしている。
そのためローカル5G基地局の送信電力の最大値は68dBmとした。
68.00dBm 23.01dBm

 

図2. 中心周波数・送信電力が異なる電波の届き方の比較(電波の届き方:強い 赤→黄→緑→青→紺 弱い)

各地点の受信電力を可視化すると、図2のように送信電力を高く設定したローカル5Gのほうが全体的に高い受信電力となることがわかりました。特に、A点付近はローカル5G(Sub6帯)ではローカル5Gを対象として電波法関係審査基準で定められるカバーエリア(通信可能なエリア)と判定できる最低受信電力(-84.6dBm)を超え、通信可能な範囲(青・緑・黄・オレンジ・赤)のなかでも高い受信電力で届いています。一方、Wi-Fi 6Eの場合、ローカル5Gと同様の基準では、カバーエリアと判定できる最低受信電力(-84.6dBm)に近い受信電力であり、差が顕著です。また、屋外のB点でもローカル5G(Sub6帯)のほうがやはり受信電力が高いです。

これらの結果は、送信電力の高い無線通信システムは通信可能範囲を広くできることを示します。一方で、予想以上に電波が飛ぶことで、自社のほかの通信システムを妨害したり、壁や土地の境界を超えて他の事業者の通信システムを妨害してしまう恐れがあることを示しています。

こうした電波妨害の危険を回避しつつ、必要な通信範囲を確保するには、シミュレーションを用いた事前検討が効果的です。

 

無線通信システムの効果的な検討のために

通信システムは種類・設定条件によって電波の届き方が大きく変わります。電波は遠くまで届くほどよいものではなく、周囲の電波利用を妨害しないようにするなど、状況に応じて適切に制御する必要があるものです。

通信システムの導入にあたって考慮するポイントは、今回検討した周波数・送信電力の他にも通信速度、消費電力、他システムとの干渉など、様々な要素があります。

複数の通信システムを比較する際、これらの条件を適切に設定したシミュレーションは、システムの試験導入よりも手軽に、より多くの条件を比較・検討できます。

お困りの際はお問合せください。お客様の課題に合わせ、今回使用したレイトレース法の他にも、FDTD法を用いた電磁界解析システムレベルシミュレーションによる大規模ネットワーク解析、さらには、電波伝搬や無線通信に関するシステム開発など、様々な手法と豊富な知見を活用して通信システムの課題解決をサポートいたします。

 

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