コラム技術コラム2024.06.19

Beyond 5Gに向けたSDR技術によるミリ波通信システム構築

Beyond 5Gに向けたSDR技術によるミリ波通信システム構築

 構造計画研究所は、総務省が取り組む「電波資源拡大のための研究開発」のうち、「研究開発課題Ⅱ.第5世代移動通信システムの更なる高度化に向けた研究開発」における課題ア-2サブテーマ②「ナノエリア対応高信頼ワイヤレスアクセス実現手法」に2019年から約4年にわたって携わりました。本記事ではこの経験より得られた成果について、その概要をご紹介いたします。

研究目的

 2025年度頃の5G普及期を見据え、通信性能向上のみならず、高速大容量・高信頼低遅延・多数同時接続を組み合わせた多様な通信サービスを実現する技術を確立すること

研究概要

構造計画研究所では、ミリ波による5G無線通信環境を構築し、電気通信大学にて考案された2つの理論的通信方式を実機で実証することをテーマとして研究開発に取り組みました。
具体的な実施内容は以下の3点です。
・OpenAirInterface (OAI)を用いたSDRによるミリ波5G通信環境構築
・多接続と低遅延を両立する通信方式のOAIへの実装と評価
・大容量と高信頼を両立する通信方式のOAIへの実装と評価

ミリ波5G通信環境構築

通信環境のアーキテクチャは5G無線アクセスネットワーク (RAN) として、Distributed Unit (DU) 1台と無線ユニットであるRadio Unit (RU) 3台を用意しました。このDUとRUをまとめたものが、5G基地局gNBに相当します。また、通信相手のユーザ端末も3台用意しました。

DU
 DUには、GPUを搭載した汎用計算機サーバを用いました。ソフトウェアは3GPP準拠のOAIを使用して、5G NRの基地局機能を実装しています。OAIは2024年現在、基地局・端末含め5G通信機能を提供する最大級のオープンソースソフトウェアとなっており、開発コミュニティも拡大し続けています。このOAI上に電気通信大学が考案した通信方式を拡張実装する形で、5Gの通信機能の中に組み込みました。さらに、DUから複数のRUを統合制御できるようにDU-RU間のインターフェースを自社で開発しました。

図1:DU タワー型サーバ SYS-740GP-TNRT

RU
 次にRUの構成についてです。DUとは光ケーブルで接続し、信号をSDRデバイスに流すための汎用PCと高速にデータ伝送を行うことができるPCI-Expressを通じて繋がるSDRボードを具備しています。さらにその先に、IF信号を適正レベルまで持ち上げるためのIFアンプを介して株式会社多摩川電子に開発いただいた28 GHz対応のRFフロントエンドがあり、4×8素子のアレーアンテナを具備しています。このSDRボード上のFPGAには、DUで生成されたベースバンド信号に対してディジタルビームフォーミングとしてプリコーディングを行うための機能を実装しています。フロントエンド部では、縦4素子でアナログビームフォーミングを行う一本のRFチェーンが繋がっており、それを横方向に8列並べることでサブアレー型のハイブリッドビームフォーミングが可能となっています。

図2:開発した28GHz帯RU

UE
 続いてユーザ端末(UE)です。本研究では端末側に拡張実装が必要な通信方式も含まれていたため、基地局だけでなく5G端末機能も提供しているOAIとUSRPを用いてUEを構築しました。実証実験での取り回しやすさを考慮し、OAIを搭載するPCには汎用のノートPCを採用しました。SDRデバイスにはUSRP X310を採用し、ノートPCのOAIで生成した信号をUSRPデバイスでIF信号として出力し、それをアップコンバートして28 GHzでオムニアンテナにより放射するというものになります。

図3:UE

以下に、ミリ波の5G通信環境の全体構成を示します。今回はDUと複数台RUを光ケーブルによってフロントホール接続し、3つのRUを含むgNBを構築しました。また、構築した環境で実際に電波を出すために免許の取得も行いました。

図4:ミリ波5G通信環境の構成図

最後に

 本コラムでは、5G高度化の研究開発の中でKKEが構築したミリ波実験環境についてご紹介しました。5G高度化ではこの環境を使って、電気通信大学の考案した2つの通信方式を評価する実証実験を行い、その有効性を示しました。
SDRやアンテナを含むフロントエンドの進化ももちろん重要ですが、一連の研究開発の中で感じたのは、OAIのような大規模オープンソースソフトウェアの重要性とそれを使いこなすことの難しさです。OAIは実機で安定動作させること自体が、ハード・ソフト・OS等の相性もありかなり困難で、通信が成功してもどのような品質の通信が実現されているか視覚的に分かりづらいです。
宣伝になりますが、ポルトガルのAllbesmart社がOAIの5G RANと5GCNを搭載したオール・イン・ワンの5G基地局装置「OAIBOX」を製造・販売しており、日本市場向けに構造計画研究所で取り扱いを開始しました。OAIBOXでは、動作が保証されている点と通信品質がリアルタイムに可視化される強力なダッシュボードが使用可能な点で、OAIを使用するハードルを取り除いています。この環境を有効に活用することで、今後のBeyond 5G時代に向けた通信の研究開発が加速されていくことを期待しています。

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