コラム技術コラム2024.09.09

電波を見える化 ~フレネルゾーンの可視化~

電波を見える化 ~フレネルゾーンの可視化~

~電波は見えない~

 電波は、私たちの身近な多くの機器(スマートフォン、テレビ、カーナビなど)に利用されています。しかしながら電波は身近な存在である一方、目で見ることができません。
 電波が届いているかどうかは、電子機器の通信状況などを通じてはじめて認識することが可能となります。例えば、一般に機器が正常に機能しているならば電波は届いているといえます。一方で、電波が届きにくいと音声や動画が途切れ途切れになってしまったり、機器が正常に動作しなかったりといった現象が生じます。通信環境の良い場所を探すことができれば良いですが、目に見えないがゆえにそれは困難です。例えば、屋内から屋外や窓際に移動することや人が混雑しているところを避ける等の対策が考えられますが、そこが「通信環境の良い場所」とも限りません。
 そこで、今回のコラムでは、電波が伝わるのに重要なフレネルゾーンについて可視化してみました。

~フレネルゾーンについて~

 電波がどのように飛ぶか、そのルールを理解することで、通信環境の良い場所を探すための参考になります。まずは電波の原則について2点お話します。

1. ホイヘンス・フレネルの原理 [1]
送信点から受信点まで伝わる電波の経路は一直線上のみではありません。遮蔽物を置くと遮蔽物の端の点を中心に放射状に伝わる波を確認することができます。

2. 位相と干渉について
電波は横波で伝搬する波であり、振幅と位相を有します。海の波のように高い部分と低い部分が存在します。高い波同士など同位相の場合は強め合い、高い波と低い波のような逆位相である場合は弱め合います。これを波の干渉と言います。

図1 ホイヘンス・フレネルの原理のイメージ

図2 同位相の波が強め合う様子

 上記で説明した2点により電波の送信点と受信点とのあいだに電波が強め合ったり弱め合ったりする領域があり、これをフレネルゾーンと呼びます。特に第一フレネルゾーンと呼ばれるエリアに構造物が存在すると電波の受信強度が著しく低下します。第一フレネルゾーンは送受信間の直接波との経路差が電波の波長の半分だけ長い経路における中間地点を全て集めた領域の内部であり図3のような楕円体となります。

図3 フレネルゾーンの概念図

~第一フレネルゾーンの可視化~

 第一フレネルゾーンを可視化する簡易的なプログラムを作成し実際に動かしてみました。受信点と送受信の座標、電波の周波数と序数(n=1)を入力することで以下のように出力されます。

図4 第一フレネルゾーンの可視化

 受信電力が変動することを確認するために障害物として薄板(図4のピンク色の物体)を設置しました。こちらは図5のようにシングルナイフエッジによる回折現象として定式化されており、障害物による受信電力の損失は図6の縦軸であるJ (ν) [dB]のように表されます[2]J (ν) = 0のときは、送受信点間に障害物が存在しない状態での電波伝搬と等しくなります。νは障害物の高さhにもとづくパラメータです(波長の長さλと送受信点からの障害物先端までの距離d1,d2からも影響を受けます)。

図5の(a) すなわちν > 0の場合は障害物が送受信点間を結ぶ見通し線よりも上側に存在する状態を表します。
図5の(b) すなわちν < 0の場合は障害物が見通し線よりも下側に存在する状態を表します。
ν = 0のときはちょうど見通し線上に障害物の先端が通る、すなわちフレネルゾーンのちょうど下半分を遮る状態です。
図4よりν < 0のときにJ (ν) > 0となる箇所が確認され、見通し線を遮っていなくても受信できる電力に損失が発生してしまうことがわかります。

図5 シングルナイフエッジによる回折モデル[2]

図6 シングルナイフエッジによる回折損失[2]

 このように電波の物理現象を理解することで、電波を見えるもののように扱うことができます。今回の例では電波の物理的な現象にのみフォーカスしましたが、現実では通信プロトコルによるデータのやりとりも発生するため、必ずしも電波が届いたからといって正常に通信が行われるというわけでもありません。構造計画研究所は電波の物理的な伝搬をシミュレーションしたり、プロトコルを考慮したネットワークのシミュレーションをしたりといった多岐にわたるソリューションを提供することができます。電波や通信に関する様々なお困りごとを解決いたします。ぜひお問い合わせください。

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[参考文献]

 [1]   砂川 重信, 理論電磁気学, 紀伊国屋書店, 1965. 
 [2]   ITU-R P.526-15, Propagation by diffraction, 2019. 

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