コラム技術コラム2024.02.02

電波伝搬と機械学習

電波伝搬と機械学習

~電波とシミュレーション~

電波は私たちの身近な多くの機器(スマートフォン、テレビ、カーナビなど)に利用されています。
電波は人間の目で見ることができないので、新しい無線システムの導入や既存の無線システムの検討時には、専用の装置を用いた測定・実験による検討が必要です。しかしながら、広いエリアで、様々な条件で網羅的な検討を行う場合には多大な時間やコストがかかります。

そこで、実験の代替として、シミュレーションの活用が挙げられます。シミュレーション手法は、電波を光と見立てて受信点までの経路を追跡するレイトレース法による電波伝搬解析、FDTD法による電磁界解析、さらには過去の実験ベースの統計モデルなどがあります。

また、最近は機械学習を活用したシミュレーション手法の開発も盛んに行われています(参考文献[1]~[4])。機械学習を用いたシミュレーションは、ある電波伝搬環境のデータを活用した学習による実測ベースの手法です。今回は、機械学習を用いた電波伝搬シミュレーションの例について紹介します。

~機械学習とは~

機械学習はさまざまな課題に適用され、多くの成果をあげています。ChatGPTを始めとする生成AIは近年急激に注目を集めています。豊富な計算資源と大量の情報の活用を背景に、その性能は飛躍的に向上しています。

機械学習のうち、教師有り学習と呼ばれる手法は図1に示すような構成で説明できます。重回帰分析での説明変数・目的変数と同様に、あるモデルを特徴づけるデータを入力することで、目的変数となる推定値を獲得します。例えば、自由空間損失を計算したい場合、説明変数は周波数と伝搬距離となり、目的変数は自由空間損失値となります。

図1 教師有り学習

機械学習の中でも深層学習と呼ばれる手法では、入力データに含まれている、目的変数を説明するための特徴を学習によって獲得できるようになりました。その結果、入力データの複雑な関係性をも自動で学ぶことができるようになりました。

図2 深層学習

~電波伝搬と機械学習~

機械学習の手法は、電波伝搬のシミュレーションにも幅広く活用されてきています。陸上移動通信の伝搬損失を推定するために使われている手法である、奥村・秦式もその一つと言えます。

表1 説明変数と目的変数

伝搬損失は実験によって得られた奥村カーブより構築された推定式です。

図3 奥村・秦式の対象

<都市部>Lp [dB] = 69.55+26.16logf-13.82loghb-a(hm)+(44.9-6.55loghb)*logd
<郊外地>Lps [dB] = Lp-2[logf/28]2-5.4
<開放地>Lpo [dB] = Lp-4.78[logf]2+18.33logf-40.94

よりよい推定精度を得るためには、奥村・秦式でも示されるように、その伝搬環境に応じた推定式の構築が必要不可欠です。そしてこの推定式の関数形を定義することこそが最も重要な課題であり、難しい問題です。そこで、この関数形をも学習によって獲得してしまおう、という手法がニューラルネットワークを利用する方法です。

その仕組みを図4に示します。伝搬環境を表現する情報として、送信点や受信点の位置、送信周波数など無線システムのパラメータだけでなく、伝搬に影響を及ぼす構造物の情報として、建物の位置や地形の起伏、構造物の材質の情報を学習の対象とします。これら入力情報からニューラルネットワークが伝搬環境の特徴を見つけ出し、またそれぞれの特徴同士の関係性の強さを学ぶことで、推定精度の向上を実現しています。

図4 伝搬環境の学習

伝搬損失を推定する具体的な機械学習の応用事例を2例挙げます。1例目は市街地での屋外環境での学習方法例です。建物の位置関係や電波の到来方向などをマップ化します。もう1例は、複数の部屋や家具などの什器が設置されている屋内での伝搬環境での学習方法例です。壁や什器などの構造物を点群化した情報を利用します。このように、伝搬環境に応じた機械学習手法を組み合せることで、精度の高いモデルを獲得可能です。

図5 機械学習の応用事例

以上、「電波伝搬と機械学習」の紹介でした。
構造計画研究所では、機械学習を活用した検討を数多く実践しております。お問い合わせはお気軽に。以下のフォームからお願いします。

また、目的に合わせた多種多様な電波伝搬解析ツールを取り扱っております。レイトレース法が利用できる電波伝搬解析ツールは、以下をご覧ください。

構造計画研究所の電波伝搬に関する解析事例は、こちらをご覧ください。

 

[参考文献]

番号 文献
[1] 岩﨑 慧, チン ギルバート シー, リキセニア ルキタ, 岡村 航, 吉敷 由起子,
‟深層学習の入力データにレイトレース法の結果を考慮した伝搬損失推定の検討,”
信学技報, vol. 119, no. 120, AP2019-33, pp. 63-68, 2019年7月.
[2] 岩﨑 慧, 呉 聖屹, 吉敷 由起子, 廣瀬 幸, 今井 哲朗,
‟橋梁下におけるドローン間通信の伝搬損失推定に関する一検討,”
信学技報, vol. 121, no. 126, AP2021-30, pp. 37-42, 2021年7月.
[3] 岩﨑 慧, 滝 勇太, 木内 和秀, 吉敷 由起子, 廣瀬 幸, 今井 哲朗,
‟構造物3次元情報を深層学習の特徴量とした橋梁環境の伝搬損失推定結果,”
信学技報, vol. 123, no. 103, AP2023-64, pp. 181-186, 2023年7月.
[4] 岩﨑 慧, 杉山 健斗, 吉敷 由起子,
‟機械学習を用いたレイトレーシングパラメータの推定手法 ~ 点群データを活用した屋内環境における一検討 ~,”
信学技報, vol. 123, no. 336, AP2023-164, pp. 24-29, 2024年1月.

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