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FMCWレーダーによる検知
上記までで、FMCWレーダー方式はチャープ信号を使って受信信号を上手く処理することで検知をするレーダーだということまでは分かったかと思います。
続いて、速度検知や距離検知等に関するFMCWのスペックはどのように決まるのか?という点について紹介したいと思います。
距離検知
距離の情報はミキサによって出力されるIF信号の周波数から取得することできます。図2にFMCWの距離検知の概念図を示します。
図2 FMCWの距離検知の概念図
図2のオレンジの線は送信信号を、緑の線は受信信号を指します。ターゲットからの反射波は送信波と同様の波形をしていますが、ターゲットまでの距離に比例した往復分の時間Δtだけ遅れます。距離をR、光速をcとすると、以下の式が成り立ちます。
$$ \Delta t = \frac{2R}{c} $$
この式は、「Tx~ターゲット」「ターゲット~Rx」の往復分の距離「2R」を考慮して、その距離を光速で割ることで算出されます。
図2はレーダーが検出するターゲットが1つであった場合の受信信号の例ですが、ターゲットが複数ある場合は、ターゲット毎にレーダーからターゲットまでの距離が異なりますので、様々な遅延時間の受信信号が検出されます。
続いて、図3に複数のターゲットが存在する場合における、FMCWの送受信信号とIF信号の関係を示します。図3は2種類のターゲットが存在しているため、距離の分遅延時間が生じた上、受信信号が2つ観測されています。
図3の下部にはある時刻におけるIF信号をプロットしています。ターゲットが2つあるので、2種類の周波数におけるIF信号が確認されています。これらを合成したものが最終的なIF信号となります。
図3 FMCWの送受信信号(上)とIF信号(下)
レーダーシステムの距離検知では、最終的なIF信号をAD変換した後、フーリエ変換(FFT)を行うことで2種類の周波数スペクトルを確認し、ターゲットの距離情報を取得します。
このときのFFTをレンジFFTと呼びます。
速度検知
レーダーの検知対象のターゲットはその場に留まっている場合もあれば移動している場合も考えられます。
そのため、ターゲットの速度を検知することも、レーダーシステムの非常に重要な役割となります。
速度を検知するためには、FMCWレーダーにおける2つのチャープ信号を用いる必要があります。
図4のように、時刻Tcの間隔で送信される2つのチャープ信号を想定します。速度は、2つのチャープ信号から取得できるIF信号の位相差を用いて計算することができます。
図4 2つのチャープ信号によるIF信号の位相差
例えば、ターゲットがレーダーから遠ざかり、Chirp #1が受信する信号よりも、Chirp #2が受信する信号がΔτだけ遅くなると仮定します。
その時、Chirp #1と#2のIF信号同士の位相差Δφは以下で表されます。
※λ:波長、v:レーダーに対する相対速度
$$
\Delta\phi = 2\pi f_c \Delta\tau = \frac{4\pi v T_c}{\lambda}
$$
上記の式を用いて、vを以下のように導出することができます。
$$
v = \frac{\lambda \Delta\phi}{4\pi T_c}
$$
なお、位相差Δφの絶対値がπより大きい値になると、位相が進んでいるのか遅れているのかわからなくなるため、Δφの絶対値はπ以下であることが必要です。
複数のターゲットが異なる速度で移動している場合においても、複数のチャープ信号を用いることで速度検知が可能です。
1フレーム中にチャープ信号がN本あるとすると、Rxが受信するIF信号の位相はN回変化します。
レンジFFTの結果に対し、更にFFTを実施することにより、図5のようにターゲットの速度を求めること
ができます。位相変化のデータをFFTすることで、角周波数を求めることができ、複数のターゲットの速度として分離することが可能です。このときのFFTをドップラーFFTと呼びます。
図5 ドップラーFFTの概念図