コラム技術コラム2024.05.08

眺めて楽しむ電磁界
~自由空間と大地2波~

眺めて楽しむ電磁界<br>~自由空間と大地2波~

見えないものを可視化する

 目に見えないものをイメージするのは、中々難しいことです。例えば、今皆様の手もとにあるスマホの電波が、どのように飛んでいるかイメージできるでしょうか。電波は目に見えないものですが、シミュレータを使えば目に見えるように、即ち「可視化」することができます。このコラムでは、そんな可視化が得意な一面をもつシミュレータを用いて、電波をアニメーションでお見せいたします。

使用するシミュレータ

 電波を可視化する方法としては、レイトレース法やFDTD法といった解析手法がありますが、今回はFDTD法を使用します(レイトレース法についてはコチラから)。FDTD法は有限差分時間領域法とも呼ばれる時間領域を扱う解析手法で、厳密な解析結果を得られる点やハイスペックなGPUなどの計算機リソースを活かせることなどの長所を持ちます。今回注目する強みは「時間変化を見ることができる」点です。つまり、アニメーションを簡単に作ることができるのです。

 FDTD法を用いるシミュレータとして、本コラムでは「XFdtd」という電磁界シミュレータを使用します。

電波伝搬を可視化する

 今回のコラムでは、電波伝搬で基本的な考え方である「自由空間伝搬損失」「大地2波モデル」を可視化していきます。まずは自由空間伝搬損失について、こちらは以下のような図で表せるモデルです。単純に、何もない空間に電波が広がっていく様子ですね。

自由空間伝搬のイメージ

自由空間伝搬のイメージ

 自由空間伝搬損失L [dB]は式にすると、

L = 20log10(4πd/λ)

 と与えられます(電力[W]を、電力[dB]に変換する変換式([dB] = 10log10[W])を使用)。伝搬損失が距離の2乗に比例して大きくなる、ということですね。では、これをXFdtdで簡単に実装してみます。

 920 MHz用のダイポールアンテナを一つ、あとはただの空気中なので特に何も必要ありません。アンテナは、図で言うと緑色のTx(送信)に当たる部分です。アニメーションが見たいので、平面に電界センサーを設定しました。これで電界の時間変化を見ることができます。電界強度のdB値は、上で述べた伝搬損失に比例する値となっています。グレーの部分は解析領域を表していて、白枠のように実はメッシュ状になっています。これはFDTD法に特有の部分ですね。解析距離は7m×25 mほどとってみました。早速解析してみましょう。

自由空間伝搬の解析イメージ

自由空間伝搬の解析イメージ

 この規模では、解析が2分で終わりました。複雑なモデルだと流石にそうもいきませんが、ここまでシンプルだと早いですね。電界についての、920 MHzのアニメ-ションと計算終了後のRMS(二乗平均平方根)値は下記の通りです。

電界アニメーション(自由空間伝搬)

電界アニメーション(自由空間伝搬)

計算終了後のRMS(二乗平均平方根)値(自由空間伝搬)

計算終了後のRMS(二乗平均平方根)値(自由空間伝搬)

 こちら、色合いが電波の強さを示しているのだとお考え下さい。綺麗に電波が伝搬している様子がよくわかります。距離が離れるほど減衰していく様子や、同心円状に電波が広がっていく様子が視覚的に理解できるものになっているかと思います。

 では、次は大地2波モデルを視覚化してみましょう。こちらは、以下の図のように表せるモデルです。直接波と反射波の2つの波を考えるものです。

大地2波モデルのイメージ

大地2波モデルのイメージ

 式にするとこのようになります。

Pr / Pt = 10log10{(λ/2πd)2GtGrsin2(2πhthr/λd)}

 Pr / Ptは、大地2波モデルを考えた時の伝搬損失[dB]にあたるものです。この式の中には、距離の2乗に従って受信電力が落ちる部分と、反射波との位相差で変動する部分があります。どんな結果になるかイメージが難しくなってきました。ではこちらもXFdtdでモデル化していきましょう。

大地2波モデルの解析イメージ

大地2波モデルの解析イメージ

 完成しました。つまるところ、自由空間伝搬損失を考えたモデルに大地を入れてあげれば良いわけです。これで大地からの反射を考慮できるようになります。

 では解析結果がこちら。

電界アニメーション(大地2波モデル)

電界アニメーション(大地2波モデル)

計算終了後のRMS(二乗平均平方根)値(大地2波モデル)

計算終了後のRMS(二乗平均平方根)値(大地2波モデル)

 先ほどと違って、大地で反射している様子がよくわかると思います。地上から一定の高さの部分だけ見ると、強くなったり弱くなったりしているように見えますね。送信位置に距離が近いところでも、一部電波が弱いところがある、ということもわかります。

 XFdtdでは、電波同士が複雑に干渉しあいながら伝搬していく様子をアニメーションで可視化する事ができます。勿論電波に限らず、アンテナ設計や回路設計、SAR、EMC、雷サージなど様々な分野に適用可能です。そしてこれらが今回のように単純なモデルではない場合、シミュレーションによる可視化無しでイメージするのは中々難しいと思います。シミュレータの強みが、しっかりと発揮できるのではないかな、と考えています。

 では、今回は以上となります。構造計画研究所では他にも様々なシミュレータを扱っており、解析事例はコチラからご覧になれます。受託解析も承っておりますので、ご興味のある方は是非一度ご連絡ください。

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