コラム技術コラム2023.05.18

EXataで多接続の端末通信を模擬

EXataで多接続の端末通信を模擬

背景・目的

机上計算では検討が困難な、プロトコルを考慮した多端末通信について、ネットワークエミュレータEXata (QualNet)を利用した評価事例をご紹介します。

解析条件

今回は、図のように数百m四方の工場内に数百台のIoT端末が設置され、中央の親機に向けて測定データを断続的に送信している状況を想定し、EXataによるシミュレーションを行いました。

詳細な解析条件は以下の通りです。

解析結果

ここでは、通信状況を評価するための値として、各端末のスループットと遅延に注目します。

まず、端末間の通信の衝突・干渉が全く起こらない環境下での値を理論値と位置づけ、机上計算を行いました。パケットの衝突・干渉を扱うことは現実的ではないため、このような理想的な計算を行っています。(詳細な計算については、記事の最後に記載しています。)

次に、シミュレーションの結果値を端末ごとに集計し、分布を取得しました。理論値と比較し、考察を行います。理論値は黒色の折れ線、結果値は青色の箱ひげ図で示しています。

【通信が疎の場合】

まずは、送信間隔が8 sの場合のスループットと遅延について、理論値と結果値の比較をグラフに示します。

親機の受信スループット (端末1台ごと)

パケット平均遅延 (端末1台ごと)

ここでは、スループットの理論値はパケット送信のレートと等しく64 bpsとし、遅延の理論値は送信遅延のみ考慮し2.59 msとします。

結果は、台数が少ない場合は理論値とほぼ一致しましたが、台数が多いほどスループットが理論値より低く、遅延が理論値より大きい値となりました。通信が混雑するとパケットの衝突が発生し、各端末はバックオフ動作を行います。この動作により送信にかかる時間が伸びるため、遅延が増大し、スループットが低下していると考えられます。

【通信が密の場合】

続いて、送信間隔が1 sの場合の比較を示します。

親機の受信スループット (端末1台ごと)

パケット平均遅延 (端末1台ごと)

端末の送信パケットが密の場合、端末数が増加すると帯域のパケットが飽和すると考えられます。このとき、スループットについては端末の増加に反比例して減少すると考え、理論値を計算します。遅延については、パケットの衝突時のバックオフ動作を簡便に扱えないため、ここでは計算していません。

スループットの結果値は理論値と同様の結果となりました。しかし、より少ない台数での減少が始まっています。遅延については、ある端末数を境に急激に増大しています。この結果から、通信の飽和によるパケットの衝突が、事前の計算より少ない台数で起こっていると考えられます。

まとめ

本記事では、ネットワークエミュレータEXataを用いて多端末通信のシミュレーションを行い、理論値との比較・考察を行いました。全体的に、理論値よりスループットは小さく、遅延は大きい結果となりました。パケットの干渉・衝突による影響が反映されていると考えられます。このように、机上計算では扱えなかった多端末特有の問題について、ネットワークシミュレーションを用いてアプローチを行うことができました。

補足

【理論値の考え方】

スループットは次のように計算した。APP層における送信パケットサイズは64 Bytes(512 bits)。送信間隔が8 sの場合、送信パケットは0.125 / sのため、512 bits * 0.125 / s = 64 bps。遅延は次のように計算した。MAC層における送信パケットサイズは81 Bytes(648 bits)。送信速度を250 kbpsとし、648 bits / 250 kbps = 2.59 ms。

通信が混雑している場合は、CSMA/CAの仕様に従う。他の端末からの受信中は送信できず、送信時に他端末の送信中だった場合はランダム時間待機する(バックオフ動作)。これに従った上で、すべてのパケットが理想的にスケジューリングされ、無駄なく送信が行われることを想定する。スループットの上限は、パケットを時間に対して可能な限り敷き詰めた場合のスループットとする。

理論値の考え方

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