コラム技術コラム2025.04.02

眺めて楽しむ電磁界
~伝送線路とインピーダンス~

眺めて楽しむ電磁界<br>~伝送線路とインピーダンス~

見えないものは理解しにくい

 高周波回路やアンテナ等を勉強していると、インピーダンスという単語が出てきます。インピーダンスは交流回路における電気の流れにくさを表し、インピーダンスの実部をレジスタンス、虚部をリアクタンスと呼ぶことがある、というのが辞書で見る表現かと思います。

 理科で習うような「抵抗」ならともかく、レジスタンスとリアクタンスがあり、しかもそのリアクタンスにも種類があって、なにやら基本的に50Ωにしないといけないとかどうとか......と混乱した記憶があります。いざ数式で追ってみるもののどうもピンとこない。まずはイメージだけでも頭に浮かべてみたい。

 そこで今回も、可視化の力を借りることにします。今回使用するタイムドメイン解析では電磁界の時間変化を確認できるので、起こっていることを想像しやすくて良いですね。もしインピーダンスや伝送線路の話がつかみきれない方がいらっしゃれば、その一助になればと思います。

 なお、可視化の力をお借りした前回の記事はコチラです→眺めて楽しむ電磁界~自由空間と大地2波~

使用するシミュレータ

 本コラムでは「XFdtd」という電磁界シミュレータを使用します。FDTD法というタイムドメインの計算手法を使用した電磁界解析のソフトです。

 フルウェーブ解析であることやとても使いやすいCAD機能など紹介したい点は色々ありますが、例えば計算の速さなどは大きなメリットです。GPUを積めばどんどん計算が早くなります。連続実行することもできる(パラメータスイープ機能など)ので、一晩寝てる間に勝手に幾つものパターンの解析が完了します。1ユーザーでもある筆者としても、ありがたい限りです。

 さて、本ソフトの便利機能群はいつか紹介するとして、今回も時間軸での結果を見ていきましょう。アニメーションやグラフで、想像しにくい現象にアプローチしていきます。

解析準備:伝送線路のモデル作成

 インピーダンスの話をする前に、ひとまず電力を運ぶ経路を作ります。伝送線路と言います。インピーダンスを回路の色んな部分で合わせないといけない理由は、この伝送線路上を効率よく電力が流れてほしいからですね。アンテナ基板でもなんでも、様々な伝送線路が張り巡らされていますので、ここを学ぶのは大切だと思います。

 今回は、同軸線路とマイクロストリップ線路を使用します。図1のような形状をしています。これらを用いて、「同軸線路から給電して、マイクロストリップ線路を通って電力を運ぶ経路」を作成してみます。

図1 使用する伝送線路

図1 使用する伝送線路

 完成したものが図2です。ちなみに、モデルの作成もXFdtd上で行っています。CADが作りやすいかどうかも、解析ソフトウェアを選ぶ観点では重要です。

図2 作成したモデル

図2 作成したモデル

 インピーダンスの急激な変化ポイント、と書いてある点は、マイクロストリップ線路の幅を経路上で突然変更しています。本来基板を設計する際はこのようなことはしませんが、今回は実験用ということで作成しました。

 さて、伝送線路上でインピーダンスが変わると何が起きるのでしょうか。そもそもインピーダンスが変わるというのはどういうことなのでしょうか。
 マイクロストリップ線路の幅が変化すると、(大雑把に言えば)電界分布の広がり方が変わってキャパシタンス(C)が変化し、磁界分布が変わってインダクタンス(L)が変化します。特性インピーダンスはこれらの値に依存しているため、線路幅が変わると特性インピーダンスが変化するのです。

 そして特性インピーダンスが変化すると、電磁波のエネルギーの流れやすさが変わるため、エネルギーの一部が元の方向に反射してしまいます。その結果、進行波と反射波の干渉で波形が歪んだり、到達する信号が損失したり、、、など様々な影響が生まれます。このため、信号を伝送する経路では出来るだけインピーダンスを一致させる(=整合させる)か、急ではなくなだらかに変化させる(例:テーパ形状など)必要があります。

 文章で色々説明してしまいましたが、今回注目してみたいのは、

  • マイクロストリップ線路の幅が急に変わると特性インピーダンスが変化する
  • 特性インピーダンスが変化すると、信号の反射が発生してしまう

という点です。これをXFdtdで再現し、視覚的に確認してみましょう。

電磁界解析結果:電流の時間変化

 とりあえずアニメーションで見てみます。電磁波のエネルギーが反射してなどといったものの、結局何が起こっているのでしょうか。電流の時間変化を確認してみましょう。

図3 電流分布のアニメーション

図3 電流分布のアニメーション

 こちらは、マイクロストリップ線路上の電流を可視化したものです。設定していた変化点で、電流が反射しているのがよく分かるかと思います。それ以外にも、スタート地点での同軸線路〜マイクロストリップ線路の部分でもインピーダンスの変化が起きているため、反射した電流がもう一度戻ってきていることが伺えますね。

 折角なので、グラフも見てみます。信号の反射を時間領域で観測するようなこの手法を、TDR(Time Domain Reflectometry)といいます。反射波がどのような時間で戻ってくるかを観測することで、線路上のどこに特性インピーダンスの不整合などがあるかを特定することができます。

図4 電流の時間変化

図4 電流の時間変化

 このグラフは、電流のスタート地点(同軸線路の下側)で観測した電流を表しています。0.00025s、0.00075s、0.00125s付近で計3回の反射が確認できます。モデルから考えるならば、最初の強い反射は同軸線路→マイクロストリップ線路の不整合反射、2つ目はマイクロストリップ線路に設定した不整合反射、最後にもう1回マイクロストリップ線路に設定した不整合反射、となっているはずです。

 では、先ほどのアニメーションを今度は時間付きで見てみましょう。画面右下に時間が書いてありますので、注目してみてください。

図5 電流分布のアニメーションと経過時間

図5 電流分布のアニメーションと経過時間

 反射波がスタート地点の緑の四角に入射されそうな時間を見てください。予想通り、3回の反射がグラフと同じような時刻で発生していますね。このように、特性インピーダンスの整合/不整合は信号の伝送効率に大きな影響を与えるので、丁寧に設計する必要があるのです。設計段階での利用は勿論、例えば実測のTDRの結果とシミュレーション上の結果を組み合わせることで、どこに不整合があるのかを特定する、などのようにもシミュレーションを利用することが出来るのではないでしょうか。

 少し話が脱線しますが、マイクロストリップ線路といえば教科書などで例の図(図6)をみたことがある方は多いのではないでしょうか。常識のように図解されていますが、シミュレーションだとどうなるのだろうと思い、ついでにやってみました。

図6 例の図(マイクロストリップ線路の電界)

図6 例の図(マイクロストリップ線路の電界)

 そういうわけで出力してみたものがこちらになります。入力側に近い、幅の狭い線路にて縦に切って電界分布を出力してみました。

図7 マイクロストリップ線路の電界の解析結果

図7 マイクロストリップ線路の電界の解析結果

 線路の端の部分から放射状に広がっている様子や、線路からグランドに向けての電界などが確認できます。教科書通りの電界分布を実際に見てみると、理解度と納得感が上がるような気がしてきます。
 上記のように、電磁界解析には様々な出力があるので、多方面からシミュレーション/設計したもの自体で何が起こっているかを確認できます。それらを上手く活用していくことで、効果的なシミュレーションの利用が可能になります。

 XFdtdでは、電磁波が複雑に干渉しあいながら伝搬していく様子をアニメーションで可視化する事ができます。基板設計やアンテナ設計の場合、多くは複雑な構造をしているため、頭だけで考えて設計することは大変難しいこととなります。シミュレーションを効果的に利用することで、正確に・効率よく実装していくことができるようになります。

 では、今回は以上となります。構造計画研究所では他にも様々なシミュレータを扱っており、解析事例はコチラからご覧になれます。受託解析も承っておりますので、ご興味のある方は是非一度ご連絡ください。

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