Home Column OAIBOX MAXを用いたチャネルエミュレータでMIMOを検証 コラム技術コラム2025.07.07 OAIBOX MAXを用いたチャネルエミュレータでMIMOを検証 本記事では、OAIBOXにgNBとUE間のチャネル状態を任意に再現する機能を拡張実装したチャネルエミュレータについてご紹介します。チャネルエミュレータを利用することでOAIBOXを用いて様々なチャネルにおける通信品質の評価が可能です。今回は、5GのMIMO通信評価を行った結果についてご紹介します。 チャネルエミュレータ OpenAirInterface(OAI)は3GPPの標準仕様に準拠した5G NRプロトコルスタックのオープンソースソフトウェア(OSS)です。一方で、OAIで利用可能なチャネルモデルは簡易な確率論的モデルしか実装されていないという課題があります。 この課題を解決するため、弊社ではgNBとUE間のチャネル状態を任意に再現するチャネルエミュレータをOAIBOXに拡張実装しました。電波伝搬状況をエミュレーションすることで、より現実的な環境で通信品質評価が行えます。 弊社のチャネルエミュレータでは、事前に作成したチャネル応答のシナリオファイルを入力することで任意のチャネル状態を模擬できます。例えば、3GPPで標準化されているチャネルモデルや、レイトレースシミュレーションの計算結果(チャネルインパルス応答)をリアルタイムで動作するOAIの無線信号に乗算することで、仮想的にチャネルを模擬します。また、チャネル応答を行列として与え、MIMOに対応したUSRPを使用することでMIMO環境のエミュレーションも可能です。OAIBOX MAXを用いた2x2 MIMO環境の検証については前回の記事をご覧ください。 これにより、シミュレーションと実機実証の間を効率よく橋渡しするエミュレーションとして、gNBとUE間の任意の通信環境を手軽に実証することができます。また、OAIBOXを使用することで、通信品質をリアルタイムでモニタリングすることができます。 OAIBOX MAXによるMIMOチャネルエミュレーションの実験準備 図1. OAIBOXに拡張実装したチャネルエミュレータの概要(2x2 MIMOの場合) チャネルエミュレータを拡張実装したOAIBOX MAXを用いて、SISOおよび2x2 MIMOの5G通信エミュレーションを実施しました。 使用した機材は前回の記事と同様ですが、再度まとめます。 基地局:OAIBOX MAX 基地局SDR:USRP X410(別途用意) 端末:Quectel RM500Q-GL(OAIBOX付属品) 端末制御PC:ノートPC(別途用意) 上記の機材を付属のケーブルで接続します。また、本実験はMIMO環境で実施するため送信用と受信用で2つずつ計4つのアンテナを使用し、USRP X410とQuectelの間を2x2 MIMOで有線接続します。 また、通信諸元を以下にまとめます。 周波数帯:n78 帯域幅:60MHz アンテナ構成:SISO、2x2 MIMO TDDスロット構成:DDDSU 図2. OAIBOX MAXによる2x2 MIMO試験を行う際の機器構成図 シナリオ設定および実験結果 弊社のチャネルエミュレータでは、チャネル行列、ゲイン、ノイズを任意の値に設定して無線空間を模擬することが可能です。 以下のシナリオファイルを作成し、適用しました。 1. チャネル行列のランク(RI)を2(2x2 MIMO)とし、ノイズが -30dB → 0dB → -30dB と変化 2. ゲインが 0dB → -30dB → 0dB と変化 3. チャネル行列のランクを1(SISO)とし、ノイズが-30dB→0dB→-30dBと変化 4. ゲインが 0dB → -30dB → 0dB と変化 実験時のOAIBOXダッシュボード画面における通信品質の変化を図3に示します。 図3. OAIBOX MAXを用いた2x2 MIMO環境のチャネルエミュレーション試験結果(1) RSRPはゲインが下がったときだけ下がるのに対し、SINRはゲインとノイズ両方の変化に応じて変化していることが確認できます。このように、チャネルエミュレータで変化させたチャネル状態によって通信品質が変動するのを確認できます。 KPI/チャネル状態変化 ゲイン変化 ノイズ変化 RSRP 変動 - SINR 変動 変動 また、SINRが下がったタイミングでBLERが上がることが確認できます。BLERが上がると、安定した信号処理を行うためにMCSが小さい値に変更されます。また、MCSの変化の傾向とCQIの変化の傾向は対応しています。このように、BLER変化に対応したMCS適応変調などの5Gの物理層とMAC層の振る舞いを確認することができます。 図4. OAIBOX MAXを用いた2x2 MIMO環境のチャネルエミュレーション試験結果(2) ビットレート(下りリンク)の変化を見ると、まずRI=2(2x2 MIMO)のときに約500Mbpsを記録しました。ノイズを-30dB→0dB→-30dBと変化をさせた間のビットレートの変化を見ると、0dBまでノイズが増加した時点でビットレートはほぼ0bpsまで落ちています。その後ノイズが減少していき、元の-30dBに戻った時点でビットレートも元の500Mbps付近まで回復します。 次にゲインを0dB→-30dB→0dBと変化させた間のビットレートの変化を見ると、-30dBまでゲインが減少した時点でビットレートが0bpsまで落ちています。その後ゲインが回復していき元の0dBに戻った時点でビットレートも元の500Mbps付近まで回復します。 このように、ノイズとゲインを同じ幅でどちらかのみ変化させると、SINRおよびビットレートは同じ傾向の変化になります。SINRは、次式で計算されます。 SINR=S/(I+N) 今回の実験では有線接続による通信実験のため、干渉信号Iはほぼ無いとして無視すると、SINRは次式で計算されるSNRと同じになります。 SNR=S/N この式から、ノイズNをある幅で小さくしたときのSNRの変化と、ゲインSを同じ幅で大きくしたときのSNRの変化は同じになることが分かります。また、それが成り立っているということは干渉信号電力Iがほぼゼロであったとも言えます。 このように、OAIBOXにチャネルエミュレータを適用することにより、シナリオファイルにしたがって現実空間を模擬したエミュレーションを行うとともに、通信品質が変動していく様子をリアルタイムで確認しながら検証することができます。 最後に 本記事では、以下の内容をご紹介しました。 OAIBOX MAXにチャネル行列、ゲイン、ノイズを任意の値に設定して無線空間を模擬することが可能なチャネルエミュレータ機能を拡張実装した。 OAIBOX MAXとQuectel端末を有線接続し、チャネルエミュレータ機能でチャネル行列のランクやスループットを任意の値に調整できることを確認した。確認にはOAIBOXのダッシュボードを用いて実施した。 本チャネルエミュレータにより、例えば自動車などのフィールド実験コストの高いユースケースのシナリオ検証をリアルタイムで通信品質を見ながら検証することができます。 ほかにもOAIBOXに関する記事はございますので、参考にしていただけますと幸いです。また、気になる点がございましたら、弊社相談窓口にお気軽にお問い合わせください。 OAIBOXOpenAirInterfaceソフトウェア無線 一覧へ戻る 次の記事へ OAIBOX MAXを用いたMIMOの検証 最新記事 2025.06.03 OAIBOX MAXを用いたMIMOの検証 2025.05.13 PLATEAU×電波伝搬ジオラマ作成 2025.05.07 電磁界解析による衛星アンテナの最適設計 2025.04.02 眺めて楽しむ電磁界~伝送線路とインピーダンス~ 2024.11.26 EXataを用いた5Gシミュレーションのベンチマークテスト 関連記事 2024.08.30 電波伝搬シミュレーションと3Dモデル 1/2~3Dモデルの調達や作成方法とは?~ 2023.11.09 PLATEAU 3D都市モデルを活用した電波伝搬シミュレーション 2024.07.24 Wireless InSiteを用いたスループット推定のご紹介 2024.07.19 OAIBOX Open RANのご紹介 2023.08.01 28GHz無線通信実験(その2) ~OSSベースのミリ波5G基地局~