コラム技術コラム2025.10.14

OAIBOX mmWaveを使ったSub6/ミリ波帯における 5G無線通信実験

OAIBOX mmWaveを使ったSub6/ミリ波帯における 5G無線通信実験

【はじめに】

 本記事では、ミリ波帯の5G無線通信の評価環境を構築できるOAIBOX mmWaveについてご紹介します。弊社ではOAI/OAIBOXをベースとした5G通信の実験環境:【OAI LAB】の整備を進めています。本コラムではOAI LABの OAIBOX mmWave を使用して、Sub6およびミリ波帯での無線通信実験を行い、通信品質を評価した結果をご紹介します。

【ミリ波とは】

 5G通信で使用される周波数帯は、6GHzに近い帯域であるSub6を含むFR1とミリ波を含むFR2に大別されます。ここでミリ波(mmWave)とは、波長が1 - 10mmとなる、30 - 300GHzの周波数の電波を指します。昨今、移動通信システムの高速化・大容量化が可能な次世代通信技術として、ミリ波をはじめとする高周波帯の活用が進められています。

【OAIBOX mmWave の特徴】

 今回用いるOAIBOX mmWave の主な特徴は以下の通りです。

  • gNBにおいて、FR1(Sub6)とFR2(ミリ波)を切り替えて実験が可能
  • TMYTEK社のアナログビームフォーマ(BBox)を用いて、FR2におけるアナログビームフォーミングが可能

図1. OAIBOX mmWaveの構成図

【実験準備】

 本実験はシールドテント内で無線通信により実施しました。以下に今回使用した機材を表1にまとめます。

表1. 使用機材一覧
機材 機種
基地局 OAIBOX mmWave
基地局SDR USRP X410
ミリ波デバイス UD Box 5G Single、BBox One 5G 28GHz
端末 5GDM01EK(モジュール:Quectel RG530F)
端末制御PC ノートPC

図2. FR2の場合の実験環境

図3. FR1の場合の実験環境

図4. 端末の実験環境(FR1、FR2共通)

 また、通信諸元は以下の通りです。

表2. FR1の通信諸元
パラメータ 設定値
周波数帯 n77(4GHz)
帯域幅 100MHz
アンテナ構成 SISO
TDDスロット構成 DDDFU

表3. FR2の通信諸元
パラメータ 設定値
周波数帯 n257(28GHz)
帯域幅 100MHz
アンテナ構成 SISO
TDDスロット構成 DDDDDDFUUU

【実験手順】

 FR1およびFR2の周波数帯において無線接続による5G通信実験を行い、遮蔽の有無による影響を比較しました。具体的には以下の手順に従い、FR1およびFR2、遮蔽なし・遮蔽ありの計4パターンの実験を実施しました。

  • 端末でスピードテストを行い、最大スループットを測定
  • スピードテストで測定した最大スループットを設定してiperfを数分間にわたり実行

 遮蔽を行う際は、図5に示すように、電波吸収体を基地局のビームフォーマまたはアンテナの近くにかざした状態で計測を行いました。

図5. 遮蔽の様子

 以下に、FR2・遮蔽ありの場合を例に、実験手順の説明を行います。
 まず、周波数範囲(Frequency Range)を設定します。ダッシュボード上で図6右のように「Frequency Range」から変更することができ、今回ではミリ波帯の「FR2」を選択します。次に周波数帯の設定を図6左の「3GPP Frequency Band」から行います。今回は「Band n257」(周波数28GHz)を設定します。

図6. O-DUの設定画面

 OAIBOXと端末の両方を起動し、端末が接続されていることをダッシュボード上で確認します。
ダッシュボード上の表示についての説明は過去の記事をご覧ください。

OAIBOXと端末の両方を起動すると、ダッシュボード上にアタッチした端末の「IMSI」アイコンが表示されます。

図7. ダッシュボード画面

 端末制御PC上でスピードテストを行います(スピードテストとiperfの手順はこちら)。

図8. OpenSpeedTestの結果

 スピードテストの結果をもとに帯域幅を設定し、Uplink TestとDownlink Testの双方向のiperfを実行した状態での通信品質を計測します。OAIBOXのダッシュボード画面で通信品質の変動をリアルタイムに観測できます。また、ダッシュボード画面で確認できる通信品質データはJSON形式でダウンロード可能です。

図9. FR2における通信品質の変動グラフ

【実験結果】

今回の実験の結果を表1に示します。表の値は、ダッシュボードから取得した通信品質データです。
遮蔽なし(または遮蔽あり)でUL/DL双方向のiperfを実行した状態で得られた2分間のデータから平均値を算出しました。

表4. 実験結果
項目 Bitrate (DL)
[Mbps]
Bitrate (UL)
[Mbps]
BLER (DL)
[%]
BLER (UL)
[%]
MCS (DL) MCS (UL) RSRP [dBm]
FR1(遮蔽なし) 395.12 58.26 0.007 7.94 27 14.15 -61.83
FR1(遮蔽あり) 395.25 54.42 0.004 7.49 27 13.15 -66.39
FR2(遮蔽なし) 215.54 74.13 10.10 5.58 23 27.84 -71.93
FR2(遮蔽あり) 164.35 3.09 10.40 8.19 16 11.53 -92.97

 FR1では、遮蔽を行うとRSRPが約5dBm低下するものの、ダウンリンクおよびアップリンクのビットレートはほとんど影響を受けていません。Sub6では減衰するまでに電波の回折や反射が発生するため、直接波を遮蔽しても受信電力は大きくは下がりません。そのため、FR1では直接波を遮蔽しても電波の減衰が比較的少なく、スループットに影響が出ない程度の受信電力の低下にとどまったと考えられます。

 FR2では、遮蔽を行ったことでRSRPが約20dBm低下し、ビットレートにおいてもダウンリンクで24%減少、アップリンクで96%減少と大幅な低下がみられました。特にアップリンクにおいて、ビットレートの低下が顕著です。ミリ波のような高周波帯は電波の直進性が高く、距離減衰が大きいという性質を持ち、FR2ではビームフォーミングを行っています。そのため、FR2では直接波を遮蔽すると受信電力が著しく低下するとともに、スループットも大きく低下したと考えられます。

 このように、FR1とFR2では、遮蔽に対して異なる挙動を示しました。これは、両者の減衰率や直進性の違いによるものです。以上のように、OAI LABではOAIBOXを使った5G無線通信の実機実験を行うことで、様々な検証を行うことができます。

【まとめ】

 今回は、弊社の5G無線通信評価環境であるOAI LABの OAIBOX mmWaveを使用したミリ波無線通信実験をご紹介しました。 OAIBOX mmWaveでは、周波数帯をFR1およびFR2に容易に変更でき、Sub6とミリ波を切り替えて実験することが可能です。また、周波数帯だけでなく帯域幅をはじめとする様々なパラメータをダッシュボード上から変更することができます。

 弊社のOAI LABでは、本コラムで紹介したOAIBOX mmWaveだけでなく、多彩な実験環境を備えており、無線/有線問わず様々な5G通信実験を行うことができます。ご興味のある方は弊社相談窓口までお気軽にお問い合わせください。

CONTACTお問い合わせ

一般的なシステム開発に加え、物理層からアプリケーション層まで通信システム全般について
お困りの際はぜひ一度私たちにお問い合わせください。