コラム技術コラム2025.11.17

OAIBOX による5Gネットワークスライシング実験

OAIBOX による5Gネットワークスライシング実験

【はじめに】

 本記事では、5Gモバイル通信で導入された「ネットワークスライシング」技術の概要と、OAIBOXを用いた実験をご紹介します。
 弊社では、OAI/OAIBOXを基盤とした5G通信実験環境「OAI LAB」を整備しています。本コラムでは、その中でも OAIBOX Open RAN を使用しています。

【ネットワークスライシングとは】

 5Gモバイル通信の利用シーンは、スマートフォンにとどまらず、自動運転、スマート工場、遠隔医療などへと大きく広がっています。このようにモバイル通信の用途が多様化していく状況において、それぞれのユースケースごとに要求条件(速度・遅延・信頼性など)が異なるため、従来のように「すべてのユーザーが同じネットワークを共有する」仕組みでは十分に対応できません。
 ネットワークスライシングは、1つの物理ネットワークを仮想的に複数のネットワーク(スライス)に分割し、それぞれを独立して制御することで、多様なサービスが共存できるようにする技術です。例えば、IMT-2020で示されている5Gの代表的なユースケースには、高速大容量通信を実現する「eMBB」、超高信頼・低遅延通信を実現する「URLLC」、および超多接続を実現する「mMTC」が提示されています。これらのユースケースをはじめとする多様なサービスに応じて、スライスを用いた柔軟なネットワーク制御の普及が進むことで、より便利で安全な通信インフラの実現が期待されています。

【OAIBOXのネットワークスライシング機能】

 OAIBOXには、無線アクセスネットワーク(RAN)の状態を監視・制御する near-RT RIC(near real-time RAN Intelligent Controller)機能が搭載されています。このRIC上で動作するアプリケーションの一つとして、ネットワークスライシング機能が提供されており、スライス単位で周波数リソースを制御することができます。
 OAIBOXでは、デフォルトでeMBBスライスが提供されており、ユーザー自身でURLLCスライスを追加できる仕様となっています。さらに、基地局や端末を停止させることなく、スライスに割り当てる周波数リソースを動的に変更することができます。

【実験準備】

 本実験では、複数スライス環境での通信特性を評価するため、複数の端末モジュールを同軸ケーブルで接続しました。
 主な使用機材は以下の通りです。

表1. 使用機材一覧
機材 機種 台数
基地局 OAIBOX Open RAN Split 8 1
基地局SDR USRP X310 1
端末 RMU500-EVB kit(モジュール:Quectel RM500Q-GL) 2
端末制御PC ノートPC 2

 
 また、今回使用した通信諸元は以下の通りです。

表2. 通信諸元
パラメータ 設定値
周波数帯 n79(4.8GHz-)
帯域幅 40MHz
アンテナ構成 SISO
TDDスロット構成 DDDFU

【実験手順】

 本実験では、eMBBスライスとURLLCスライスを用いて、スライスの割り当て方法による通信品質の違いを評価しました。
 手順は以下の通りです。

  1. ネットワークスライシングの設定
  2. 各ノードの起動および接続確認
  3. 各端末で通信品質を測定
  4. 接続スライスを変更して再評価

 以下に、各手順の詳細を説明します。

  1. ネットワークスライシングの設定
 OAIBOXでネットワークスライシングの設定を行う方法をご紹介します。以下に、OAIBOXダッシュボードにおけるネットワークスライシングの設定画面を示します。この画面では、スライスの追加、設定変更、および削除が可能です。なお、デフォルトではeMBBスライスのみが存在します。

図1. ネットワークスライシングの設定画面

 画面上部の帯グラフのような箇所でドラッグ&ドロップ操作を行うことで追加するスライスに割り当てる帯域をリソースブロック単位で選択できます。今回は帯域幅がおよそ10MHzに相当するリソースブロックをURLLCスライスに設定します。

図2. 新規スライスを追加

 スライスの設定を入力します。

図3. 新規スライスの設定画面

 設定を入力し「save」をクリックすると新規スライスの追加が完了し、追加したスライスが確認できます。

図4. ネットワークスライシングの設定画面(URLLCスライス追加後)

  2.各ノードの起動および接続確認
 OAIBOXと端末の両方を起動し、端末が接続されていることをダッシュボード上で確認します。ダッシュボード上の表示の解説はこちらをご覧ください。本実験では端末を接続するスライスを以下の2パターンで行いました。
    i. eMBBのみ
    ii. eMBBとURLLC

  3.各端末で通信品質を測定
 Quectel 制御用のノートPC上で同時にスピードテストを行います。スピードテストの実行手順はこちらをご覧ください。また、本実験ではスライスごとの遅延を比較するため、pingコマンドを用いてOAIBOX内のコンテナサーバーとUE間の往復遅延も計測します。

  4.接続するスライスを変更して再評価
 端末を接続するスライスを変更します。3. と同様にスピードテストとpingを実施して通信品質を確認します。

【実験結果】

 2台の端末を eMBB スライスのみに接続した場合と、eMBB スライスと URLLC スライスに分けて接続した場合の下りリンクのスループットを比較します。
 さらに、端末1をそれぞれ eMBB スライスと URLLC スライスに接続した際の往復遅延についても比較します。

表3. 実験結果(スループット)
実験ケース 端末1
接続スライス
端末1
スループット
(DL) [Mbps]
端末2
接続スライス
端末2
スループット
(DL) [Mbps]
i. eMBBのみ eMBB 71.1 eMBB 67.9
ii. eMBBとURLLC eMBB 107.2 URLLC 33.2

表4. 実験結果(往復遅延)
接続先スライス 往復遅延 [ms]
eMBBスライス 18.5
URLLCスライス 13.1

 「i. eMBBのみ」のスループット計測では、2台の端末が40MHzの帯域を分け合うように動作しました。結果として、各端末とも約70Mbpsを記録し、帯域20MHz相当の理論値に近いスループットを同時に達成していることが確認できました。
 「ii. eMBBとURLLC」のスループット計測では、URLLCスライスが10MHz分を専有し、残りの30MHzをeMBBスライスが利用する動作となりました。このとき、URLLCスライスに接続した端末は33.2Mbps、eMBBスライスに接続した端末は107.2Mbpsを記録し、いずれも理論値と整合する結果が得られました。
 往復遅延計測では、低遅延通信を目的とするURLLCスライスに接続した場合のほうが、eMBBスライスに接続した場合と比べて遅延が小さいことが確認されました。

 本実験では、ネットワークスライシングを活用し、スループットおよび遅延の特性を評価しました。OAIBOXでは、URLLCスライスに接続する端末に対しリソース割り当ての優先やMACスケジューリングを高頻度化に行うことで、超高信頼・低遅延通信を実現しています。
 実験結果からも、これらの実装により、URLLCスライスがeMBBスライスより優先的にスケジューリングされていること、ならびに相対的に低遅延を実現していることが確認できました。
 さらに、OAIBOXは新たなアルゴリズムを柔軟に実装できるため、ユースケースに応じたスライスの研究開発や、ネットワークスライシングを活用したアプリケーション評価にもご活用いただけます。

【まとめ】

 本稿では、弊社の5G無線通信評価環境「OAI LAB」において、OAIBOX Open RANを用いたネットワークスライシング実験をご紹介しました。
 OAI LABでは、無線・有線を問わず多様な5G通信の検証環境を整備しており、研究開発や実証実験のご相談も承っています。
 ご興味をお持ちの方は、弊社相談窓口へお気軽にお問い合わせください。

【お知らせ】

 本記事で紹介したネットワークスライシング実験は、2025年11月26日よりパシフィコ横浜で開催される「マイクロウェーブ展2025」にて動態展示を行います。実際に動作する実験環境をご覧いただける予定ですので、ご来場の際はぜひお立ち寄りください。

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