コラム技術コラム2024.08.30

電波伝搬シミュレーションと3Dモデル 1/2
~3Dモデルの調達や作成方法とは?~

電波伝搬シミュレーションと3Dモデル 1/2<br>~3Dモデルの調達や作成方法とは?~

1.シミュレーションと3Dモデル

近年、デジタルツインやサイバーフィジカルシステム(CPS)など仮想空間上でのシミュレーションにまつわるテーマが注目され、シミュレーションに関心を持たれた方も多いと思います。技術開発にスピードが求められる世の中では、仮想空間上で行われるシミュレーションがこれまで以上に重要な技術となってきました。

しかし、いざシミュレーションをやってみよう!と思い立った時に最初の悩みになるのが、
”シミュレーション用の3Dモデルをどう用意するか?”です。
映画のVFXや、コンピュータゲームのCGを見慣れた昨今、皆様が想像する3Dモデルは次のような物じゃないでしょうか?

都市の3Dモデル

"Times Square, New York City, NY, USA" (https://skfb.ly/oruqF) by Brian Trepanier is licensed under Creative Commons Attribution (http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/).

建物の細部の構造が作り込まれ、テクスチャで質感もリアルに表現されています。
「こんなものをノウハウも無しに自前では作れないよ!」という気持ちになりそうですが、
実は、シミュレーションに使う3Dモデルは皆様が考えているよりずっと簡単です。
というのも、シミュレーションで使う3Dモデルはそれぞれのシミュレーション手法で用いる情報さえ持っていれば十分だからです。

このコラムでは、全2回でシミュレーション用の3Dモデルをどのように用意するかについて、
弊社の電波伝搬シミュレータやそれに関連する研究開発を題材にご紹介します。

2. 電波伝搬シミュレータと3Dモデル

弊社では、レイトレース法という手法を用いた電波伝搬シミュレータ(RapLab、Wireless InSite、WaveFarer)を取り扱っております。レイトレース法は、3Dモデルに陰影をつけてリアルに描写するために光の進み方を計算するときなどに用いられる計算手法です。

レイトレースの概要図

弊社の電波伝搬シミュレータでは、光と同じように電波をレイトレースすることで、送信点から受信点まで、電波が伝搬するにあたって障害となる建物などの構造物の影響を考慮した伝搬をリアルに解析することができます。
詳しくは、こちらをご覧ください。

レイトレース法における伝搬経路(反射・透過・回折)

3. 電波伝搬シミュレーション用3Dモデルの準備

さて、そんな電波伝搬シミュレーションに用いる3Dモデルですが、
レイトレース法において電波の散乱点となる面や辺を探索するため、構造物の形状の面情報を持っている必要があります。
こういった面情報を持つ3Dモデルは、3D CADデータと呼ばれます。

3D CADデータは、次の2種類の準備方法があります。

 i. 既存のデータベースから調達する。
ii.2次元の図面などをもとに自分で作成する。

以下では、それぞれについて具体的に紹介していきます。

 i. 既存のデータベースから調達する。

最も簡単な方法は、すでにある3D CADデータを使うことです。
例えば屋外環境のシミュレーションであれば、建物や地形の市販3D CADデータや国土交通省のオープンデータベース1,2などがあります。国土交通省のプロジェクトPLATEAUで公開された屋外3D CADデータを用いた電波伝搬シミュレーションについては、こちらをご参考ください。

PLATEAUの3Dモデルによる解析事例

ii. 2次元の図面などをもとに自分で作成する。

シミュレーションしたい環境の3D CADデータが手元に無い場合、2次元の図面などの寸法情報を頼りに3D CADソフトウェアを用いてデータを作成することもよくあります。
例えば、屋内の工場環境のような機密性の高いエリアや、レイアウトが頻繁に変わるオフィス環境、計画段階の屋内環境などです。

下図は電波伝搬シミュレーションのために2次元の建物図面から作られた屋内のモデル3です。
かなりシンプルですよね?

Wireless InSiteのチュートリアル屋内モデル

屋内の3Dモデルの事例

また、Wieless InSiteでは以下のように図面や地図等の画像を取り込んで、簡単なモデルを作成することも可能です。

Wireless InSiteの3Dモデル編集画面

4. さいごに

電波伝搬シミュレーションで使う3Dモデルについて、イメージを深めていただけたでしょうか?
どちらの方法で準備した3Dモデルも、ご想像の3Dモデルよりもシンプルなものだったかと思います。
電波伝搬シミュレーションの3Dモデルでは見た目に凝った3Dモデルを作成する必要はありません。
図面を精密に再現するのではなくざっくりと物体の形を表現するつもりの方が、ちょうどいいでしょう。

さらに、弊社では電波伝搬シミュレータの販売だけでなく、こういった3Dモデルの作成も含めた電波伝搬シミュレーションの受託解析も行っておりますので、是非お問い合わせください。

以上、「電波伝搬シミュレーションと3Dモデル」の前半でした。後半では、3Dモデルに関連して弊社で実施しているより詳細な検討や研究開発についてご紹介いたしますので、お楽しみに!

参考

  1. 国土地理院Webページ, https://www.gsi.go.jp/top.html
  2. PLATEAU, https://www.mlit.go.jp/plateau/
  3. C. Yang, et.al, ‘A Ray-Tracing Method for Modeling Indoor Wave Propagation and Penetration’, IEEE Trans. on Antenna and Propagation, Vol. 46, No. 6 June 1998

また、今回題材とした電波伝搬シミュレータの詳細につきましては以下をぜひご覧ください。

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