Home Column 電磁界解析による衛星アンテナの最適設計 コラム技術コラム2025.05.07 電磁界解析による衛星アンテナの最適設計 電磁界解析は衛星アンテナ設計における必須技術 地上のネットワークだけではカバーしきれないエリアや、通信途絶のリスクがある環境において、衛星通信は重要な役割を担っています。通信の重要性が増す中で、衛星通信の高性能化への期待は高まるばかりです。 また「より高速で大容量な通信」「広範囲なカバーエリア」「多様な周波数帯への対応」といった市場のニーズに応えるため、衛星アンテナの設計はますます複雑化しており、従来の設計手法だけでは対応が困難になっています。 そこで、注目を集めているのが「電磁界解析」技術です。電磁界解析は、目に見えない電磁波の振る舞いをコンピュータ上でシミュレーションし、アンテナ性能を事前に評価する技術です。本記事では、電磁界解析が衛星アンテナの設計において、いかに不可欠であり、設計最適化を通じてどのような効果をもたらすのかを解説します。 図1 衛星のヘリカルアンテナの電磁界解析 なぜ電磁界解析が不可欠なのか 打ち上げコスト削減を目指す、衛星アンテナの小型・軽量化 衛星を打ち上げる際のコストは、重量に比例して高額になります。特に商業衛星においては、わずかな重量増がプロジェクト全体の経済性に大きな影響を与えます。打ち上げコストを削減するため、アンテナの小型・軽量化は極めて重要な課題です。 アンテナの小型・軽量化を実現する手法の一つに、電磁界解析があります。電磁界解析を用いると、アンテナの電気的性能を維持しながら、構造的な無駄を排除し、材料の使用量を最適化できます。この最適化によるアンテナの軽量化は衛星全体の重量削減に大きく貢献するので、結果として打ち上げコストの削減に繋がります。 通信の高速・大容量化、低遅延化、マルチバンド化による設計難易度の高まり 現代の衛星通信システムは、高速かつ大容量のデータ伝送が求められています。また、限られた周波数資源を有効活用するため、複数の周波数帯域を同時に利用するマルチバンド化が不可欠な技術となっています。上記の要求を満たすアンテナ設計は、従来の経験則や単純な計算だけでは極めて困難です。 電磁界解析は、電磁波の相互作用や、異なる周波数帯における性能の両立などを詳細にシミュレーションできます。設計者は、定量的な解析データに加えて、電磁波の振る舞いを視覚的に理解する事ができます。結果として、従来の経験則に頼らず、高性能なアンテナ設計が可能になります。 新たな通信規格への対応と開発効率向上による市場競争力強化 通信分野では、常に新しい通信規格や技術が登場しています。市場における競争力を維持・強化するには、新しい規格への迅速な対応が不可欠です。 電磁界解析を活用することで、物理的な試作に先行して、新しい規格に対応したアンテナの性能評価や、設計の妥当性を検証することができます。試作前の検証は、問題点の早期発見と、試作後の手戻り防止につながります。その結果、開発期間を大幅に短縮し、市場のニーズに対応した競争力のある製品開発が可能となります。 電磁界解析による設計最適化の事例 アンテナ形状最適化によるコスト削減 千葉大学 千葉大学大学院理学研究科 ハドロン宇宙国際研究センター様の事例では、電磁界解析ソフト「XFdtd」が、アンテナ形状の小型化に貢献しております。高い利得を維持しながら、アンテナの小型化を実現。アンテナの建設にかかるコストの削減に貢献しました。 衛星アンテナの設計においても、電磁界解析は同様の恩恵をもたらします。性能を損なうことなくアンテナの製造コストを抑える事ができます。結果として、衛星全体の軽量化に繋がり、高額な打ち上げ費用の低減にも貢献します。 参考事例:解析コンサルティングおよび電磁界解析ソフト「XFdtd」活用事例 https://network2.kke.co.jp/casestudies/chiba-u_xfdtd2 図2 電磁界解析ツールを用いたアンテナ設計 アンテナ配置最適化によるシステム全体の通信性能向上 複数のアンテナを搭載する衛星システムでは、アンテナ同士の近接配置が電磁波の相互干渉を引き起こします。電磁波の相互干渉は、システム全体の通信効率や信号品質を低下させる可能性があります。電磁界解析を用いることで、アンテナ間の電磁的な相互作用を詳細にシミュレーションし、最適な配置、間隔、向きなどを導き出すことができます。 図3 航空機用パッチアンテナの結合シミュレーション 電磁界解析で次世代衛星アンテナ開発へ 衛星通信分野は、データ需要の急増、新たな通信規格の登場、そして宇宙空間のより積極的な活用という、かつてない変革期を迎えています。また、市場が求める高速かつ大容量のデータ伝送を実現するため、衛星アンテナの設計は複雑化しており、従来の設計手法だけでは対応が困難になっています。 衛星アンテナ開発の課題に対応し、重要な役割を果たすのが電磁界解析です。電磁界解析を活用することで、以下の恩恵をもたらすことができます。 ・小型軽量化による打上げコストの削減 ・高速大容量通信を支える高性能化 ・そして迅速な開発サイクルを実現する効率向上 弊社、株式会社 構造計画研究所には、電磁界解析の知識と経験豊富なエンジニアが多数在籍しており、お客様の衛星アンテナ設計に関するご相談に、日々対応しております。「電磁界解析に関するお困りごと」「電磁界解析ツールの導入相談」「他社の電磁界解析ツールとの比較」等について、詳しく説明してほしい。などのご希望がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。 三次元電磁界解析ツール「XFdtd」 XFdtd衛星通信電磁界解析 一覧へ戻る 前の記事へ PLATEAU×電波伝搬ジオラマ作成 次の記事へ 眺めて楽しむ電磁界~伝送線路とインピーダンス~ 最新記事 2025.08.12 ITU-R SG3関連会合への参加活動のご紹介 (Participation in the annual activities of ITU-R Study Group 3) 2025.07.24 【新機能のご案内】Wireless InSite 移動体機能 動的な無線環境のシミュレーションへ 2025.07.22 もう「圏外」はない?スマホが直接“宇宙”とつながる「衛星ダイレクト通信」の未来と課題 2025.07.07 OAIBOX MAXを用いたチャネルエミュレータでMIMOを検証 2025.06.03 OAIBOX MAXを用いたMIMOの検証 関連記事 2020.06.25 Remcom社とのパートナーシップ 2025.07.24 【新機能のご案内】Wireless InSite 移動体機能 動的な無線環境のシミュレーションへ 2025.07.07 OAIBOX MAXを用いたチャネルエミュレータでMIMOを検証 2024.07.02 オープンソース5G基地局 「OAIBOX」で5G通信研究プラットフォームを構築 2024.07.31 【LEO衛星シミュレーション】JC-SAT2023渡航記その3 ~国際会議の原稿を書こう~