レイトレース法を活用したフェージングシミュレーション

背景と目的

背景

  • 移動通信システムの設計・評価には、電波伝搬特性をモデル化したチャネルモデルが活用されてきた。
  • 特にシステム品質に影響が大きい瞬時的な受信レベル変動はフェージングと呼ばれ、現在は、GSCM(Geometry-based stochastic channel model)と呼ばれる確率モデルが使われている。
  • 一方、GSCMは特定の環境の建物等の影響を考慮しないモデルである。
  • 特定の環境でシステム評価するためには、その環境の建物等の影響を考慮する必要がある。

目的

  • レイトレース法を活用して、特定の環境の建物等を考慮したフェージングシミュレーションを実施する。

使用する解析ソフト

  • 本事例ではFading Tool for Wireless InSiteを使用する。レイトレース法には、3次元電波伝搬シミュレータWireless InSiteを使用する。
  • Fading Tool for Wireless InSiteは国際標準化団体の技術報告書[1]に基づいたフェージングシミュレータである。構造計画研究所が開発した[2]。

解析条件

解析モデル

  • 解析モデルは、図1に示す500×500mの典型的な都市環境を対象とする。
  • 紫の■が送信点(Tx)を表す。
  • 送信点(Tx)アンテナは図の左方向に指向している。
  • ユーザ端末(UE)が、赤点線に沿って、送信点に近づく移動を想定する。
図1:解析モデル
図2:アンテナパターン
表1:解析条件一覧
項目
周波数 28.3 GHz
最大反射回数 3
最大回折回数 1
Txアンテナ 指向性アンテナ(8 [dBi])
(3GPP TR38.901モデル)
Rxアンテナ Isotropic(0 [dBi])
UE移動速度 1[m/sec.]
レイトレース法の計算点 2m間隔に配置

解析結果

  • フェージングシミュレーション結果について、考察する。
  • 従来使われてきたGSCMとも比較する。

フェージングシミュレーション結果

  • 全体を通して、送信点に近づくほど、受信レベルが大きくなる傾向が見られる。
  • フェージングは時刻によって変動するため、レイトレース法の計算結果よりも大きくなる時刻と小さくなる時刻が存在する。
図3:Fading toolによるフェージングシミュレーション結果とレイトレースシミュレーション結果
  • フェージング計算は、試行(乱数シード)ごとにランダムに変化する。
  • グラフ全体の傾向は変わらないものの、各時刻で異なるフェージング環境をシミュレーション可能である。
図4:Fading toolによるフェージングシミュレーション結果(3試行)

GSCMとの比較

  • 従来のGSCM(QuaDRiGa)[3]では試行間で、受信レベルが大幅に変動する。
  • この傾向は、GSCMはレイトレース法と異なり、その環境の建物等の影響を考慮してないために生じる。
  • 特定の環境で、複数回のシミュレーションから統計評価を行う場合、レイトレース法を用いたフェージングシミュレーションの方が、検証したい建物環境での変動を適切に考慮できると考えられる。
図5:Fading  tool(左図)と従来のGSCM(右図)によるフェージングシミュレーション結果

まとめ

  • レイトレース法を活用したフェージングシミュレーションは、特定環境の建物等を考慮した通信品質を統計的に予測する場合に、効果的なことが分かった。
  • フェージングシミュレーションには、Fading Tool for Wireless InSiteを使用した。

  • レイトレース法による電波伝搬シミュレーションには、3次元電波伝搬シミュレータWireless InSiteを用いた。

Wireless InSite

参考文献

  • [1] 3rd Generation Partnership Project(3GPP)Technical Report(TR) 38.901 v17.0.0 (2022)“Study on channel model for frequencies from 0.5 to 100 GHz”
  • [2] 山倉裕和,江森洋都,関 幸一,吉敷由起子,“3GPP map-based hybrid channel modelフェージングシミュレータの開発, “信学技報, vol. 122, no. 399, RCS2022-282, pp. 190-195, March 2023.
  • [3] F. Burkhardt, S. Jaeckel, E. Eberlein and R. Prieto-Cerdeira, “QuaDRiGa: A MIMO channel model for land mobile satellite,” The 8th European Conference on Antennas and Propagation (EuCAP 2014), 2014, pp. 1274-1278, doi: 10.1109/EuCAP.2014.6902008.

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