都市部でのMassive MIMOを用いたビームフォーミングの検討

背景と目的

背景
  • 5Gで研究されている重要な要素技術のひとつにMassive MIMOがある。
  • Massive MIMOでは大規模なアレイアンテナによるビームフォーミング技術が用いられる。
  • ビームフォーミング技術を用いることで空間分割多元接続(SDMA)による単一周波数帯域を使用した複数ユーザへの同時データ送信が可能となり、5Gでの高速・大容量無線通信が実現する。
目的
  • 都市部のスモールセルにおけるMassive MIMOを用いたビームフォーミングを電波伝搬シミュレーションにより評価した。
  • また、隣接するセルからのパイロット汚染の影響を評価する。
  • ビームフォーミングのプリコーディング手法としては最大比送信(MRT)とZero-Forcing(ZF)を用いる。

使用する解析ソフト

  • 3次元電波伝搬シミュレータ
    Wireless InSiteを用いたレイトレース法による評価を行う。

解析条件

解析モデル
  • 解析モデルはバージニア州ロズリンの都市環境でのスモールセルである。
  • MIMOの基地局(送信機)は柱の上(高さ10m)に配置する(図1の緑点)
  • 受信機を移動ルート(図1の赤線)および静止位置15箇所(図1の赤点)に配置する(高さ1.5m)。以下、ルートに沿って移動する受信機を「移動端末」、静止位置の受信機を「静止端末」という。
  • パイロット汚染の影響評価で使用する端末も配置する(図1の青点、高さ1.5m)。
  • 移動端末を対象にビームフォーミングの検討を行う。
  • 図2に送信機に用いるMassive MIMOアンテナを示す。
  • 受信機には垂直ダイポールアンテナを用いる。
Massive MIMOアンテナ

周波数:28GHz

構成:両偏波を持つ8×8のアレイ(合計128素子)

各素子の放射パターン:ダイポール

サイズ:4.3cm×4.3cm(素子間隔:λ/2)

WIビームフォーミング_解析モデルと送信機・受信機の配置位置
図1:解析モデルと送信機・受信機の配置位置
WIビームフォーミング_MIMOアンテナ
図2:Massive MIMOアンテナ


ビームフォーミングのプリコーディング手法
  • 最適なビームフォーミングとは、個々のユーザに最大電力を供給することと、他のユーザにおける信号の干渉を低減または排除することとの間の妥協点である。
  • 本検討ではビームフォーミングのプリコーディング手法としてMRTとZFを使用する。
    MRT:最大比送信

    対象ユーザに到達する電力を最大になるように、ビームフォーミングの重みを設定する手法。

    ZF:Zero-Forcing

    対象ユーザ以外のユーザへの干渉を最小になるように、ビームフォーミングの重みを設定する手法。

WIビームフォーミング_MRT
図3a:最大比送信(MRT)
WIビームフォーミング_ZF
図3b:Zero-Forcing(ZF)


パイロット汚染
  • 基地局は、各モバイル端末から送信されるパイロット信号によってチャネル推定を行う。 しかし、直交パイロット数には制限があるため、複数セルと多数の移動端末では、すぐに制限に達する。
  • パイロット汚染とは、基地局が2つ以上の端末から同一あるいは相関のあるパイロット信号を受信することである。
  • パイロット汚染が発生すると、チャネル推定が劣化し、セル内のビームフォーミングの性能が低下する。
WIビームフォーミング_パイロット汚染
図4:パイロット汚染


解析結果

パスゲイン
  • 図5に移動端末の移動経路に対するパスゲインを示す。
  • 128素子分のグラフを重ね描いており、同偏波ではパスゲインが高く、交差偏波ではパスゲインが低い。
  • 複素パスゲインはビームフォーミングアルゴリズムの入力となる。
WIビームフォーミング_パスゲイン
図5:パスゲイン
MRTとZFの結果比較
  • 図6に移動端末が2地点にいる場合のMRTとZFのビームフォーミングの結果を示す。
  • MRTでは、移動端末に向かって強いビームが形成されているが、静止端末への干渉も大きい。
  • ZFでは、静止端末へのビームの抑制ができており、干渉が小さい。
WIビームフォーミング_ビームフォーミング結果
図6:ビームフォーミング結果(上:MRT、下:ZF)
  • 表1に受信電力、干渉受信電力、SINRのルート全体の平均値を示す。
    • SINR:Signal-to-Interference-plus-Noise Ratio
    • ノイズフロア(Noise)は都市部の垂直偏波測定(文献[6])から-87.1dBmとした。
  • 受信電力はMRTの方がZFより14dB高いが、MRTでは干渉受信電力の方が受信電力より高くなる。
  • SINRはMRTよりZFの方がはるかに良い。
表1:受信電力とSINR
ルート全体の平均値 MRT ZF
受信電力(dBm) -49.0 -63.0
干渉受信電力(dBm) -47.9 *ノイズフロア程度で無視できる
SINR(dB) -3.7 21.6
パイロット汚染
  • 図7にパイロット汚染なし/ありのMRTとZFでの移動経路に対するSINRの変化を示す。
  • MRTではパイロット汚染によるSINRの変化はあまり見られない。
  • ZFではパイロット汚染によりSINRが著しく低下する。
WIビームフォーミング_パイロット汚染_SINR変化
図7:SINRへのパイロット汚染の影響
(青:MRT、赤:ZF、破線:パイロット汚染なし、実線:パイロット汚染あり)
  • 表2にパイロット汚染なし/ありの受信電力、干渉受信電力、SINRのルート全体の平均値を示す。
  • MRTでは受信電力がわずかに減少するため、SINRもわずかに減少する。
  • ZFでは干渉受信電力が大幅に増加するため、SINRが約29dBも減少する。
表2:パイロット汚染なし/ありの受信電力とSINR
プリコーディング手法 ルート全体の平均値 パイロット汚染なし パイロット汚染あり 変化
MRT 受信電力(dBm) -49.0 -51.0 -2.0
干渉受信電力(dBm) -47.9 -47.9 0
SINR(dB) -3.7 -5.6 -1.9
ZF 受信電力(dBm) -63.0 -68.6 -5.6
干渉受信電力(dBm) *ノイズフロア程度で無視できる -64.2 *非常に大きい
SINR(dB) 21.6 -7.6 -29.0

まとめ

  • プリコーディング手法にMRTおよびZFを用いてビームフォーミングの検討を行った。
  • 本シナリオではプリコーディング手法にZFを用いた方がMRTを用いるより、SINRが良い結果となった。
  • ただし、パイロット汚染によってZFではSINRが著しく低下した。
  • 本稿はRemcom社のWebサイトにある論文(

    Simulation of Beamforming by Massive MIMO Antennas in Dense Urban Environments

    )をもとに作成した。
  • 電波伝搬シミュレーションには、3次元電波伝搬シミュレータ Wireless InSite を用いた。

参考文献

  • [1] A. Osserian, F. Boccardi, V. Braun, K. Kusume, P. Marsch, M. Maternia, O. Queseth, M. Schellmann, H.
    Schotten, H. Taoka, H. Tullberg, M. A. Uusitalo, B. Timus, and M. Fallgren, "Scenarios for the 5G Mobile
    and
    Wireless Communications: the Vision of the METIS Project," IEEE Communications Magazine, Vol. 52, Issue 5,
    May
    2014, pp. 26-35.
  • [2] E. G. Larsson, F. Tufvesson, O. Edfors, and T. L. Marzetta, "Massive MIMO for next generation wireless
    systems," IEEE Commun. Mag., vol. 52, no. 2, pp. 186-195, Feb. 2014.
  • [3] L. Lu, G. Y. Li, A. L. Swindlehurst, A. Ashikhmin, and R. Zhang, "An Overview of Massive MIMO: Benefits
    and
    Challenges," IEEE Journal of Selected Topics in Signal Processing, Vol. 8, No. 5, October 2014, pp.
    742-758.
  • [4] METIS2020, "METIS Channel Model," Tech. Rep. METIS2020, Deliverable D1.4 v3, July 2015. Available:
    https://www.metis2020.com/wp-content/uploads/METIS_D1.4_v3.pdf.
  • [5] E. Björnson, M. Bengtsson, and B. Ottersten, "Optimal Multiuser Transmit Beamforming: A Difficult
    Problem
    with a Simple Solution Structure", IEEE Signal Processing Magazine, Vol. 31, No. 4, 2014, pp. 142-148. Also
    available arXiv:1404.0408v2 [cs.IT] 23 Apr 2014.
  • [6] R. Beck, "Results of Ambient RF Environment and Noise Floor Measurements Taken in the U.S. in 2004 and
    2005," World Meteorological Organization Report, CBS/SG-RFC 2005/Doc. 5(1), March 2006.

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