地下鉄駅ホーム上のWi-Fi混雑状況のCBTCへの影響評価

背景と目的

背景

  • 近年、列車運行性能向上または設備保守コストの削減のため、「無線を利用した列車制御システム:CBTC(Communications-Based Train Control)*」に関する検討が鉄道業界において活発化している。
    *CBTC:列車が自身の位置を無線で中央制御装置へ送信し、中央制御装置から列車へ停止限界点を無線で送信することで列車制御を行うシステム。
  • CBTCに用いられる周波数帯は、既存の列車無線の周波数帯、携帯電話事業者が保有する周波数帯等、様々な周波数帯において検討されているが、地下鉄においてWi-Fiと同じ2.4GHz帯を用いる事例が存在する。
  • 2.4GHz帯を用いる場合、旅客が使用するWi-Fi通信と列車制御システムの干渉が問題になることが懸念される。
  • CBTCにおいて、一定時間以上の無線通信の断絶は列車運行に多大な支障をきたす恐れがあるため、電波伝搬環境の把握は大変重要である。

解析の目的

  • 無線による列車制御を行うためには、旅客のWi-Fi通信からの与干渉の影響を把握する必要がある。
  • 地下鉄ホームのWi-Fi通信の混雑状況を解析し、実測との比較を行うことで、解析結果の混雑状況が妥当であるかを検証する。

実測環境

  • 中国ハルビン市のホーム上において旅客(APとUser)が通信している状況を模擬する。
  • 旅客が発するWi-Fi通信波を線路上の受信位置(列車)で測定する。
  • 線路上の受信位置における実測値と解析の比較を行い、解析が妥当であるか検証する。
中国ハルビン市のホーム
中国ハルビン市のホーム

使用する解析ソフト

  • 旅客からの電波の混雑状況の計算には、ネットワークシミュレータQualNetを用いる。
  • 旅客から受信点までの電波の伝搬損失の計算には、3次元電波伝搬シミュレータRapLabを用いる。

解析方法と条件

解析方法

  • 中国ハルビン市のホーム上において旅客(APとUesr)が通信している状況を模擬する。
  • 旅客が発するWi-Fi通信波を線路上の受信位置(列車)で測定する。
ハルビンの解析モデル
解析モデル
  • ネットワークシミュレータで旅客からの電波(送信電力)を計算する。
  • 電波伝搬シミュレータで線路上の受信点までの伝搬損失を計算する。
  • 線路沿いの受信点における受信電力Prを求める。
ハルビン解析方法イメージ
解析方法イメージ

解析条件

  • 解析条件は以下のとおりである。
解析条件
周波数 2.4GHz
無線LAN(Wi-Fi)規格 802.11n
アンテナ、偏波 ダイポール、垂直偏波
受信レベルの計算間隔 1m
ネットワークのシミュレーション内容と時間 730kbpsの動画。ルーティング確立まで60秒待機後、1m/sで520m移動。
伝搬経路計算の制限(最大回数) 反射=1、回折=1、透過=1
駅構造物材質 ホーム壁:コンクリート
ホーム天井:石膏ボード
ホームドア:ガラス、鉄

実測と解析値の比較

  • 旅客からの電波(干渉波)の線路上での合計電力とそのCDF(累積分布関数)の実測とシミュレーションの比較を下記に示す。実測は黒色、シミュレーションは赤色で示す。
ハルビン結果
実測とシミュレーションの比較
  • 解析、実測ともに駅ホームでの干渉波が大きく、APとUserがいる-60m~0m付近の干渉波が高い。
  • 干渉波の合計電力のCDFが-40dBmから-80dBmの範囲で実測とほぼ一致している。
  • 例えば、CDF=0.8における差は4.1dBである。
  • -80dBm以下で差が開くのは、実測の測定機材の雑音レベル(20MHz当たり約-87dBm)が原因である。

まとめ

  • 地下鉄ホームの旅客利用のWi-Fi通信波のCBTCに対する干渉波を解析で模擬し、実測と比較した。
  • 実測値と解析結果はほぼ一致した。
  • ネットワークシミュレータと電波伝搬シミュレータを組み合わせた手法および駅構造をモデル化して組み込む手法の有効性を確認できた。
  • ネットワークシミュレーションには、ネットワークシミュレータ QualNet を用いた。
  • 電波伝搬シミュレーションには、3次元電波伝搬シミュレータ RapLab を用いた。

参考文献

  • 吉敷由起子, チン ギルバート シー, 西田賢史,"CBTCのためのレイトレース法による地下鉄駅およびトンネル内のWi-Fi通信波の伝搬特性の評価", 2017 信学総大, B-1-5, Mar. 2017.

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