SUMO、OpenStreetMapとEXataによるV2Xネットワークシミュレーション

背景と目的

背景

  • V2X(Vehicle-to-Everything)とは、高度道路交通システム(ITS)において車両が他の車両、インフラ、歩行者、ネットワークなど周囲のさまざまな要素と情報をやり取りするための無線通信技術である。V2Xの中で特に車車間通信(V2V)、路車間通信(V2I)、車両とネットワーク間通信(V2N)は、それぞれ重要な役割を担っている。V2Vは車両同士の情報交換により衝突回避や交通流の最適化を、V2Iは交通インフラと車両間の情報交換により信号制御や運転支援を、V2Nは車両と通信ネットワーク間の情報交換により経路案内や交通情報の収集分析を可能にする。
  • ITSでは様々なユースケースが想定され、ITSによる道路交通インフラの高度化の取り組みが日本を含めグローバルに行われており、その効果の予測、検討の必要性が増している。
  • V2X技術の検証方法としてフィールド試験の実施が考えられる。しかし実際の道路の交通状況は日々変化し、様々な影響要素が存在するため計測結果の再現と考察が難しい。
  • V2X技術の検証にネットワークシミュレータを用いることで、影響要素の条件設定を明確にし、結果の再現と考察を迅速かつ容易に実施できるようになる。

目的

  • EXata と SUMO、OpenStreetMap (以下、OSM) を用いることで、実際の道路と交通環境を模擬したV2Xシミュレーションが可能であることを示す。
  • 具体的には、モニタリングデータの収集を想定し、5Gセルラー網を利用して100台の車両から定期的に情報を収集するユースケースにおいて、インフラの設置条件とその諸元からどの程度のカバーエリアが想定されるのかを定量的に評価する。
  • V2N通信への無線リソース割り当て量の設定条件下での収容可能な通信量を定量的に評価する。

使用する解析ソフト

  • SUMO Version 1.19.0
  • Open Street Map (OSM)
  • ネットワークシミュレータ EXata 8.1.3.0

解析条件

  • 弊社周辺の道路地図をOSMによりSUMOに取り込み、SUMOを使って道路上を走行する車両100台を配置した。
  • SUMOからエクスポートした車両配置をEXataに取り込み可能な形式に変換し、EXataの5G Model Library を適用してキャリア広域通信網のネットワークを利用する V2N ユースケースの EXata シナリオを作成した(図1)。
  • EXata により、実際の道路と交通環境を模擬したシステムレベルシミュレーションを実行する。
SUMO + OSM のデータを EXata に取り込んだ画面
図1. SUMO + OSM のデータを EXata に取り込んだ画面

解析条件詳細

    

分類 対象 備考
1 ノード構成 基地局(gNB) 1機 高さ30m、カバーエリア半径および700m
2 端末(UE) 100台(車載機を想定)
3 5G設定 運用方式 SA Standalone mode
4 周波数 1.7 GHz n3 (FDD)
5 帯域幅 10 MHz
6 スライス帯域予約量 V2X 1.0% 5Gの無線リソースのうち、1.0%をV2X用スライスに割り当てた。
7 送信電力(gNB) 43 dBm
8 送信電力(UE) 23 dBm
9 MIMO なし (1x1)
10 アンテナ設定 アンテナ形状(gNB) omnidirectional
11 アンテナ形状(UE) omnidirectional
12 アンテナゲイン(gNB) 20 dBi
13 アンテナゲイン(UE) 4 dBi
14 伝搬モデル パスロスモデル COST231-HATA(urban)
15 フェージングモデル Rayleigh 最大速度10 m/s
16 通信トラフィック 各UEが5Gコア網の背後に接続されたサーバ宛に1分に1回、1,000 bytes 〜 32,000 bytes のデータを uplink 方向に送信する。 ITS Forum RC-017 [1] の「ユースケース f-2 交通流の最適化のための情報収集」を参考にした。
17 シミュレーション時間 500秒

表1:シミュレーション諸元

  • 東西2,000m、南北 1,400m の範囲に 1台の gNBが存在する場合を想定した。
  • 基地局から遠い場所に一部、電波状況が悪いエリアが存在する。
  • 評価項目:データの end-to-end 遅延、到達率を検証
  • 比較パラメータ:V2Nの1回に送信するトラフィックサイズを変化させる

解析の結果

インフラのカバーエリア評価

  • 1回のデータ送信サイズを1,000bytesとしたとき、シミュレーション時間を通じて発生した全てのデータ送信イベントに対応する車両位置を○で、そのデータの受信に成功した場合は●で評価エリアにプロットした図を示す。
  • 概ね、基地局(gNB)から半径 700 m 程度の円内から送信されたデータは受信に成功している。
  • その外では受信環境が悪く送信を試みたデータの受信に失敗している。
           走行中のデータ送信位置とその受信可否の関係
          
図2. 走行中のデータ送信位置とその受信可否の関係
          

1回に送信するデータサイズとEnd-to-end到達率の評価

  • 無線リソースの1%がV2N用途に割り当てられると仮定し、V2X用スライスを定義した。
  • 1回のデータ送信サイズを増やしてゆき、今回仮定した条件下で100台の車両が1分に1回情報収集のために送信できるデータサイズの上限を確認した。

End-to-end 到達率

  • 1回のデータ送信サイズとEnd-to-end到達車両率の関係を図3に示す。
  • 1回のデータ送信サイズが1,000〜 8,000 bytes の場合、End-to-end 到達した車両の割合は 94% であった。(車両100台中 6台は電波状況により通信できなかった)
  • 1回のデータ送信サイズが16,000 bytes の場合、End-to-end 到達した車両の割合は 89%、1回のデータ送信サイズが32,000 bytes の場合、End-to-end 到達した車両の割合は 37%であった。これは、V2Xスライスに割り当てられた5Gの無線リソース(1%)の場合、1回のデータ送信サイズの増大に伴って、時間内にデータ送信できない車両の割合が増加していることを示している。
  • さらに、1回のデータ送信サイズが64,000 bytes の場合、時間内にデータ送信できた車両はおらず、5Gリソースの割り当てが1.0%では、64,000 bytes のデータを送信に必要なリソースとして不足していることが示された。
1回のデータ送信サイズとEnd-to-end到達率(%)
図3. 1回のデータ送信サイズとEnd-to-end到達率(%)

データサイズとend-to-end 遅延の関係

  • 時間内にデータ送信できた車両について、1回のデータサイズが 1,000 bytesの場合と、32,000 bytes の場合の end-to-end遅延の累積度数分布を図4に示す。
  • データサイズが大きくなると、V2N通信の end-to-end 遅延が増加する傾向が認められたが、車両からのデータ収集頻度の60秒に対しては十分に小さい遅延である。
1回のデータ送信サイズごとの end-to-end 遅延 CDF
図4. 1回のデータ送信サイズごとの end-to-end 遅延 CDF

考察

  • 5Gセルラー網を利用したV2Nユースケースとして、V2Xへの無線リソースの割り当てを1.0%、半径700mのセルでカバーされるエリアを対象に1分に1回の頻度で全車両から渋滞情報を収集すると仮定した場合の、データサイズの上限値を評価した。
  • 1回の送信データサイズが 1,000~8,000 bytes まではセル内を走行する車両からデータを収集できた。
  • 1回の送信データサイズが16,000 bytes を超えると、V2Xへの無線リソースの割り当てが1.0%の場合、セル内からのデータ送受信に失敗するケースが生じた。
  • 1回の送信データサイズが32,000 bytes の場合は、V2Xへの無線リソースの割り当てが1.0%では不足し、データ収集できないことがわかった。
  • データサイズが大きくなると、V2N通信の end-to-end 遅延が増加する傾向が認められたが、車両からのデータ収集頻度の60秒に対しては十分に小さい遅延であることが確認できた。

まとめ

  • EXata と SUMO、OpenStreetMap (以下、OSM) を用いることで、実際の道路と交通環境を模擬しつつ、再現可能なV2Nシミュレーションが可能であることを示した。
  • 1機の基地局がカバーする東西2,000m、南北1,400mのエリア内の100台の車両からセルラ網を利用して定期的にモニタリングデータを収集するユースケースにおいて、 End-to-end 遅延およびパケットロス率を評価した。
  • V2Nに割り当てる5Gのリソースを1.0%と仮定した場合の、V2Nのモニタリングデータ収集における End-to-end 遅延およびパケットロス率がどの程度影響を受けるかを定量的に評価した。

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