コラム技術コラム2023.06.20

28GHz無線通信実験(その1) 
~OSSベースのミリ波5G基地局~

28GHz無線通信実験(その1) <br>~OSSベースのミリ波5G基地局~

 オープンソースの4G/5GシステムであるOpenAirInterface(OAI)とソフトウェア無線(SDR)、ビームフォーミング技術を掛け合わせてミリ波5G基地局を構築し、28GHz無線通信実験を行いました。今回はその実験環境について紹介します。

実験環境

 28GHz無線通信実験の全体図を図1に示します。基地局はDU(Distributed Unit)とRU(Radio Unit)で構成されます。一般的に、DUでは変復調や符号化・復号化などの信号処理を行い、RUではビームフォーミングやA/D変換・D/A変換を行います。今回、DUの信号処理はOAIを用いて実装しました。OAIは3GPP準拠のオープンソースソフトウェアで、無償かつ比較的容易に5GのRANやコアネットワークをPC上に構築できます。また、OAIで生成した5G信号を直進性が強く減衰量が大きい性質を持つミリ波帯で通信するためには、ビームフォーミング技術が必要不可欠です。そこで今回、新方式ディジタルビームフォーミング機能を搭載したSDRと、アナログビームフォーミング可能なICチップを複数内蔵したミリ波モジュールをそれぞれ開発し、サブアレー型のハイブリッド(ディジタル+アナログ)ビームフォーマとしてRUを構築しました。また、端末(UE)は、ソフトウェアによる5G信号処理をOAIで実装し、ハードウェアはSDR(USRP X310)と28GHz対応アップダウンコンバータで構築しました。

図1:28GHz無線通信実験の全体図

ビームフォーミングについて

ここでは開発した2つのビームフォーミングデバイスについてご紹介します。
1つ目は新方式ディジタルビームフォーミング機能を搭載したSDRデバイスです。Hitech Global社のHTG-ZRF8というSDRボードを購入して、そのFPGA上に新方式のディジタルビームフォーミング機能を実装しました。このSDRはTxとRxがそれぞれ8chあり、MIMO技術を最大限に発揮することができます。また、PCI Expressを搭載しているため、PC上のOAIと高速にデータ通信することができます。
今回実装した新方式では、3GPP(Release15~17)で規定されているような基地局に割り当てられた帯域全体に一つのビームとして指向性を持たせるだけではなく、8chの各ストリームが独立した任意のビームを形成することが可能です。さらに、各ストリームに流れる5GのOFDM信号の各サブキャリアに対しても同様のことが可能で、個別の端末に向けた非常に自由度の高いビームパターン形成を可能にする方式です。つまり、周波数方向において変動が激しい通信路環境でも、その環境に適応した適切なビームパターンを形成することが可能です。この方式は計算密度が高く、FPGAの並列計算性能を最大限に活用しています。
2つ目にハイブリッドビームフォーミング対応のミリ波モジュールです。縦4素子・横8素子の32素子アレイアンテナを搭載したモジュールで、ディジタル8chが独立動作します。SDRで生成した3GHz帯の中間信号をミリ波の28GHz帯にアップコンバージョンし、振幅・位相制御によるハイブリッドビームフォーミングを行います。アナログ回路での振幅・位相制御はSPI通信によりマイコンやラズパイから制御可能です。
この2つのビームフォーミングデバイスを接続してリアルタイムにビーム制御を行うことで、ミリ波5Gハイブリッドビームフォーマ基地局を実現しています。

図2:ミリ波5G基地局のビームフォーミング

最後に

本コラムでは、ミリ波時代のキーテクノロジーとなるビームフォーミング技術を活用したミリ波5G基地局について説明しました。5G基地局を作ることは容易ではなく、OAIなどのオープンソースソフトウェアの発展のおかげで、周辺技術の発展も加速してきていると思います。弊社では、このミリ波5G基地局を用いて遮蔽に強い通信環境の研究開発をしています。
次回のコラムでは実際にOAIを用いた28GHz無線通信実験の様子についてご紹介します。

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