コラム技術コラム2023.06.07

DXのための無線通信システム検討法 1/2

DXのための無線通信システム検討法 1/2

DXを支える無線通信システム

近年、デジタル技術を活用し、業務プロセスやプロダクトサービスを効率化するDX(Digital Transformation)が注目されています。例えばスマートファクトリーは、職人の経験や勘に頼っていた作業を、センサ技術を活用して高精度で自動化し、製造や品質管理を推進します。また、農地環境を解析し、気候に合わせて栽培の仕方を調節する自動管理農業のような仕組みも考えられています。このほかにも、図1.に示すように様々な例があります。

図1. DXの例

ローカル5Gの適用事例(総務省: https://www.soumu.go.jp/main_content/000828843.pdf)

一方、こうした仕組みには、図2.で示すような環境から情報を取得する多数のセンサと、得られた情報を分析する解析システム、そしてそれらを結び情報のやりとりをする通信システムが必要不可欠です。

図2. センサと解析システムをつなぐ通信システム

その中でも無線通信システムは様々な選択肢があり、どのように検討したらよいのか、お困りになることもあると思います。

そこで、DX化・スマート工場・スマートオフィスなどで話題に上がるローカル5G(Sub6帯)と、Wi-Fi 6E(6GHz帯)の二者の比較を通じて、無線通信システム検討の手法を2回にわたって紹介します。今回は検討の題材である二つの無線通信システム、「ローカル5G」と「Wi-Fi 6E」、そして今回の検討で電波の届き方を定量的に推測する、「電波伝搬シミュレータ」を紹介します。

 

ローカル5G: 広いエリアをカバーする

ローカル5Gは、移動しながらの高速大容量・低遅延・同時多数接続を目指した無線通信システムで、高速で動く多数の装置や乗り物との通信を途切れることなく行うことに強みがあります。また、送信する電力が大きいので、より広い通信エリアをカバーできます。

ただし、運用するには総務省に申請して免許を発行してもらう必要があります。ローカル5Gには大きく分けて2つの帯域があります。ひとつは5GHz近傍の「Sub6帯」、もうひとつは28GHz近傍の「ミリ波帯」です。本連載では、Sub6帯に焦点をあてて比較します。

弊社ではローカル5G・BWA 免許申請用エリア描画ツール KCAMPの販売と、KCAMPを使用した免許申請用エリア図の作成支援を行っています。

KCAMP・ローカル5Gの免許申請についてはこちら

 

 

Wi-Fi 6E: 手軽な高速無線通信システム

Wi-Fi 6Eは無線LANの規格の一つで、2022年9月に日本で使用できるようになったものです。(総務省:https://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/others/wlan_outdoor/index.htm)Wi-Fi 6Eでは、従来使用できなかった6GHz帯が開放され、これまでのWi-Fiよりも高速・大容量で通信できます。また、運用に免許は不要です。ただし、送信電力に制限があるため、広いエリアをカバーすることは難しいです。

ローカル5GとWi-Fi 6Eのそれぞれの特徴を以下の表にまとめました。

 

このように、両者には様々な違いがありますが、表のような定性的な情報だけでは定量的にどれだけ通信できる範囲を確保できるか、どれだけの通信速度を実現できるかを読み取ることは難しいです。そこで、本連載では電波の届き方をシミュレーションする「電波伝搬シミュレータ」を使用して、「それぞれのシステムの一台の基地局の発する電波の届き方」に焦点を絞ってローカル5GとWi-Fi 6Eの電波の届き方を定量的に比較していきます。

電波伝搬シミュレータ: 定量的な通信環境の推測・評価

本連載では電波の届き方を定量的に分析するため、電波伝搬シミュレータWireless InSite を使用します。電波伝搬シミュレータを用いた検討は、実際に無線通信システムを立ち上げる必要がないため、複数の大規模システムの比較検討を試験導入するよりも安価に短期間で行うことができます。また、これまでに例を見ない新しい通信方式を使用する場合にも、これまでの経験知の蓄積に加えて有益な知見を得られます。

電波伝搬シミュレーションを行うことで、図3. に示すように地図上にBS(送信局)を設置し、街のどこにどれだけ強く電波が届いているかを可視化し、電波の届き具合を定量的に分析することが可能です。ここでは赤色のエリアが最も強い電波が届いており、赤→黄→緑→青の順に届いている電波が弱くなっていることを示します。

 

図3. 電波伝搬シミュレータの計算結果例電波の届き方:強い 赤→黄→緑→青 弱い)

電波伝搬シミュレータの計算原理には様々なものがありますが、本連載で使用するWireless InSite はレイトレース法を計算原理として使用します。レイトレース法は電波を光に見立て、障害物に反射するなどして電波がどこまで届くかを計算する手法です。

レイトレース法の原理についてはこちらのコラムで解説していますので、併せてご覧ください。

弊社のレイトレースシミュレーションソフトウェアについては以下のリンクをご参照ください。
Wireless InSite
RapLab

今回まとめ:ローカル5GとWi-Fi 6Eの定量的な比較に向けて

今回は無線通信システムの比較検討の題材となるローカル5G・Wi-Fi6Eと、定量的な比較検討のための電波の届き方のシミュレーション手法(電波伝搬シミュレータ)の紹介をしました。複数の無線通信システムを比較する際、適切に設定したシミュレーションは、実際にシステムを試験導入するよりも手軽に、複数のシステムの比較検討が可能です。

次回は電波伝搬シミュレータを使用して、ローカル5GとWi-Fi 6Eの電波の届き方を定量的に比較します。

通信システムの導入・運用の検討でお困りの際はお問い合せください。お客様の課題に合わせ、電波伝搬シミュレーションの他にも、FDTD法を用いた電磁界解析システムレベルシミュレーションによる大規模ネットワーク解析、さらには、電波伝搬や無線通信に関するシステム開発など、様々な手法と豊富な知見を活用して通信システムの課題解決をサポートいたします。

 

実際の解析事例はこちら

 

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