ミリ波帯における人体のRCSの解析

概要

  • 呼吸は心拍などのバイタルサインをミリ波センサーによって取得するバイタルセンシングにおいて、人体のミリ波帯の特性を知ることは重要である。
  • しかし、ミリ波帯の特性を厳密に求めるためにFDTD法などで電磁界解析をしようとした場合、マシンリソースや解析時間が膨大になり現実的ではない。
  • 本稿では、レイトレース法をベースとしたWaveFarerを使用して人体のミリ波帯のレーダー反射断面積(RCS)解析を実施し、FDTD法の解析結果や先行研究による報告値と比較して妥当な結果を得た例を示す。

FDTD法によるRCSの解析

  • まず、FDTD法を使用した電磁界解析ツールXFdtdを用いて人体モデルのRCSの解析を実施した。
  • FDTD法では周波数が高くなるほどメッシュサイズ小さくなり、その分マシンリソースを圧迫する。今回計算に使ったマシン環境では解析周波数として6.5GHzまでの実施となった。
  • 人体モデルは西洋人男性の平均的な体形のモデルで直立した姿勢のものを使用した。このモデルには39の人体組織(筋肉、皮膚等)の電気特性[1]が設定されており、より厳密な電磁界解析が可能となっている。

 

  • この人体モデルを使用したFDTD法によるRCSの計算結果は下図のようになった。なお、RCSは人体の正面の値を計算している。
  • 解析周波数は0.5~6.5GHzまで(0.5GHz刻み)としている。
 

FDTD法によるRCSの解析結果(縦軸:RCS[dBsm]、横軸:周波数[GHz])

(左)水平偏波 (右)垂直偏波



  • 周波数によってばらつきがあるものの、水平・垂直の両偏波で-15~10 dBsmの範囲に収まっていることが確認できる。

WaveFarerを使ったミリ波帯のRCSの解析

  • 次に、レイトレース法をベースとしたWaveFarerを使用してミリ波帯までの周波数範囲(80GHzまで)におけるRCSを解析した。WaveFarerはレイトレース法にPO(物理光学近似)を加えることで比較的高精度な電波伝搬解析を実行することができる。
  • 解析で使用する人体モデルは以下となる。レイトレース法に使用するモデルは面で構成されている必要があるため、今回はWaveFarer用に構築されたこちらのモデルを使用する。FDTD法で使用した人体モデルとサイズ感は同じものの、姿勢や電気特性が若干異なることには注意が必要である。

 
 
  • WaveFarerにより求めたRCSは以下となった。オレンジがWaveFarerのRCS、青がFDTD法のRCSである。(FDTD法の計算結果は6.5GHzまで)
  • FDTD法の解析と同様、RCSは人体の正面の値を計算している。

 

WaveFarerによるRCSの解析結果(縦軸:RCS[dBsm]、横軸:周波数[GHz]) 水平偏波


 

WaveFarerによるRCSの解析結果(縦軸:RCS[dBsm]、横軸:周波数[GHz]) 垂直偏波


 
  • 両偏波とも6.5GHzまでの結果はFDTD法と近しい結果が得られた。各周波数での値のばらつきもFDTD法の結果と同程度に収まっていることが確認できる。
  • 先行研究[2]による報告値は0 dBsm(10GHz)、2 dBsm(24GHz)、6 dBsm(79GHz)となっており、こちらも同程度のオーダーとなっている。
  • これらのことから、WaveFarer用に構築された人体モデルをミリ波帯におけるRCS解析に使用することで、FDTD法の計算値や実験値と近しい結果が手軽に得られることが期待できる。

WaveFarerを使って水平面のRCSを一周(360度分)取得する

  • 最後に、WaveFarerを使用して4つの周波数(2.4GHz、26GHz、60GHz、79GHz)におけるRCSを水平面で360度分(1度刻み)取得する。
  • 取得面のイメージは以下のように、0度が正面方向、90度が人体モデルの左側面方向となる。RCSはモノスタティックのものを計算したため、角度ごとに解析を実施する必要がある。今回の場合、各周波数で360回の解析となる。
   
  • 各周波数におけるRCSは以下となった。各グラフの右方向が人体モデルの正面方向(0度)、上方向が左側面方向(90度)である。
  • まずは水平偏波の結果を周波数毎に示す。
 

人体モデル一周分のRCS[dBsm](左:2.4GHz、右:26GHz) 水平偏波


 

(左:60GHz、右:79GHz) 水平偏波


 
  • 次に、垂直偏波の結果を周波数毎に示す。
 

人体モデル一周分のRCS[dBsm](左:2.4GHz、右:26GHz) 垂直偏波


 

(左:60GHz、右:79GHz) 垂直偏波


 
  • 2.4GHzの結果では、人体モデル正面が他角度と比べて大きなRCSとなっている。
  • 26GHz、60GHz、79GHzになると、人体モデルの正面方向が特別大きなRCSということは言えない。また、おおよそではあるが-15~10dBsmの間で角度によって値が変動しており、ある程度パターンが見えていた2.4GHzのような比較的低い周波数帯と比べると傾向が異なっていることがわかる。

まとめ

  • ミリ波帯における人体のRCSの解析を WaveFarer を使用して行った。
  • 解析結果のRCS値は、FDTD法の解析結果や先行研究による報告値と比較して妥当な値であることを確認した。

 

参考文献

  • [1]IT'IS tissue database, v2.3
  • [2]T.Motomura, K.Uchiyama and A.Kajiwara, "Measurement Results of Vehicular RCS Characteristics for 79GHz Millimeter band", 2018 IEEE Radio and Wireless Week (RWW2018), California(USA), Jan.2018.

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