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シャドウイング
図2 シャドウイングのイメージ
2つ目の要素は、シャドウイングです。
送信局から送られる電波は、建物などの障害物に遮られる場合があります。
このとき、ユーザ端末のいる場所によって受信できる電力の変動は変動します。
これを表すのが、シャドウイングです。
シャドウイングは、送信局とユーザ端末、さらにその周辺の建物の位置関係によって決まります。
特定の場所のシャドウイングを求めるためには、建物の地図データを使ったレイトレーシングシミュレーションなどを活用する必要があります。
特定の場所に限定せず、広いエリアでシャドウイングを計算する場合、場所ごとに地図データを用意してシミュレーションすることは、時間も労力もかかるため、現実的ではありません。
こうした用途では、受信電力が確率分布にしたがって変動する統計モデルが使用されます。
簡易な例としては、あるエリアのパスロスで求めた受信電力に、確率的に変動するシャドウイングを組み合わせることで、そのエリアのシャドウイングの影響を加味してエリア特性を求めることができます。
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フェージング
図3 フェージングのイメージ図
3つ目の要素は、フェージングです。
ここまでに説明してきたパスロス、シャドウイングは、送信局とユーザ端末、さらにその周辺の建物等の位置関係が分かればある程度、決定論的に予測することができます。
これらの要素以外によって発生する瞬時的な受信電力の変動を表すのが、フェージングです。
例えば、送信局からユーザ端末へ直接届く電波と、地面等で反射した電波との干渉が引き起こすマルチパスフェージングや、対流圏で発生する散乱波など、自然現象によるフェージングなどの種類があります。
これらの特性は、統計的なモデルとして計算することが一般的です。
フェージングを計算するためのフェージングモデルは、いくつも考案されてきています。
分類の一例を図4に示します。
図4 フェージングモデルの分類
フェージングモデルの大きな分類の1つとして、Site-general/Site-specificという考え方があります。
フェージングを計算する環境(=Site)を特定しないモデルをSite-generalモデルと呼びます。一方で、環境に応じて計算に使う値が変わるモデルを、Site-specificモデルと呼びます。
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Site-general モデル
Site-generalモデルは、場所や都市規模を特定せずに使用できるフェージングモデルです。
一例として、Jakesモデルがあります。
Jakesモデルでは、ユーザ端末に全方向から同じ大きさの電波が到来する状態を想定します。
Jakesモデルは、Rayleighフェージングと呼ばれるフェージング現象を表したモデルで、初期の携帯電話の登場ごろから使用されてきました。
Site-specificモデル
Site-Specificモデルは場所や都市規模を入力し、それらに合わせた計算を行うフェージングモデルです。
Site-specificモデルは、さらにStochastic(統計的)モデルとDeterministic(決定論的)モデルに分類ができます。
Stochasticモデルは、ここまでに説明したシャドウイングと同じように、確率分布を使って、ランダムなフェージングを計算します。
フェージングモデルでは、ユーザ端末にどの方向から電波が到来するか、また、複数の電波が到来する場合、どの程度の遅延で到来するか、といった特性が結果に影響します。
こうした到来方向や、遅延時間は、これまでの電波伝搬測定に基づいた適切な確率分布が報告されており、それらを使ってフェージングを計算します。
Stochasticモデルでも広く使用されているものには、都市規模に応じて遅延時間や到来方向の確率分布が決まるGeometry-based Stochastic channel model(GSCM)などがあります。
GSCMでは、1つの方向から複数の電波が届くことを表現するために、多数の電波の到来を「レイ」と、お互いに遅延時間や到来方向が似た電波をまとめた「クラスタ」で基地局-ユーザ端末間の電波の経路をモデル化します。
一方のDeterministicモデルでは、電波の経路を、建物や地形を含む地図データを使って求めます。
電波は建物や地形に当たると、反射などの散乱現象が起きて、進行方向が変化します。そのため、地形や地図を使用して計算モデルを作成することで、その場所特有の電波の届き方をシミュレーションできます。
経路の計算には、レイトレース法と呼ばれるシミュレーション手法が活用されるケースが多くなっています。
なお、このようなDeterministicモデルの中でも、最も特定の環境に特化した計算モデルが、実測で得られた測定結果を用いたモデルです。
弊社ではレイトレ―ス法による電波シミュレーションツールの販売と、これらを活用した受託解析・コンサルティングを行っています。