コラム技術コラム2024.07.24

Wireless InSiteを用いたスループット推定のご紹介

Wireless InSiteを用いたスループット推定のご紹介

~電波伝搬シミュレーションと通信性能評価~

電波伝搬シミュレーションは、見えない電波の伝搬経路を可視化して、効率よく無線システムの検討を行う手法です。電波伝搬シミュレーションの1つであるレイトレース法では、送信点から受信点まで、電波伝搬の障害となる建物などを考慮して伝搬損失(受信電力)や電波の伝搬経路を算出できます。

通信性能の評価は、単純な受信電力による評価だけでなく、単位時間当たりに通信可能なデータ量を示すスループット等で行われることが一般的です。今回は、弊社の電波伝搬解析ツールの1つであるWireless InSiteを活用した無線通信システムのスループット推定をご紹介します。

~Wiress InSiteを用いたスループット推定の流れ~

Wireless InSiteでは、レイトレース法による電波伝搬シミュレーションで算出された受信電力をもとにした、簡易的なスループット推定ができます。このような受信電力等を後処理し、通信状況を推定する機能を、Wireless InSiteの「Communication System機能」と呼んでいます。

下図は、スループット推定機能の流れです。まずはWireless InSiteの通常の計算機能により、所望波・干渉波の受信電力と環境条件に基づく雑音電力を評価します。Communication System機能では、これらからSINR(Signal-to-Interference-plus-Noise Ratio、信号対干渉波雑音比)を評価します。そして、通信方式や帯域幅ごとにWiress InSiteに内蔵された、SINRとスループットの対応テーブルを参照してスループットを算出します。

Wiress InSiteを用いたスループット推定フロー

〜スループット推定の解析事例~

下図は、Communication System機能を用いて屋内住宅環境のWi-Fi(802.11ac)のスループット性能をエリア評価した解析事例です。2階建ての屋内住宅環境の各階に送信点(Wi-Fiルーター)を設置した場合の合計スループットを評価しています。

2箇所の送信点(Wi-Fiルーター(802.11ac))からの合計スループットのエリア評価

詳細は、以下をご参考ください。

また、弊社が取り扱うネットワークシミュレーションのEXata(QualNet)との比較事例は、以下をご参考ください。

~Communication System機能で評価可能な通信方式~

最後に、Communication System機能で評価可能な通信方式と使用されるMCS(変調方式及び符号化率)の種類を下表にまとめます。特にWireless InSiteの最新版であるver.3.4では、新たに802.11axや、第5世代移動通信システム(5G)用に3GPPにて策定された通信方式の5G NRに対応しております。

通信方式と使用されるMCSの種類

通信方式 MCS(変調方式(符号化率))
LTE QPSK(1/10, 1/6, 1/5, 1/4, 1/3, 2/5, 1/2, 3/5, 2/3, 3/4)
16QAM(2/5, 9/20, 1/2, 11/20, 3/5, 2/3, 3/4, 4/5, 5/6)
64QAM(1/2, 3/5, 5/8, 2/3, 17/24, 3/4, 4/5, 5/6, 7/8, 9/10)

5G NR FR1,2
ver.3.4で新規追加!

QPSK(0.117, 0.188, 0.301, 0.438, 0.588)
16QAM(0.369, 0.424, 0.479, 0.540, 0.602, 0.643)
64QAM(0.455, 0.505, 0.554, 0.602, 0.650, 0.702, 0.754, 0.803, 0.853)
256QAM(0.667, 0.694, 0.736, 0.778, 0.821, 0.864, 0.895, 0.926)
WiMax QPSK(1/12, 1/8, 1/4, 1/2)
16QAM(1/2)
64QAM(1/2, 2/3, 3/4)
802.11n BPSK(1/2)
QPSK(1/2, 3/4)
16QAM(1/2, 3/4)
64QAM(1/2, 2/3, 3/4)
802.11ac BPSK(1/2)
QPSK(1/2, 3/4)
16QAM(1/2, 3/4)
64QAM(1/2, 2/3, 3/4)
256QAM(3/4, 5/6)
802.11ax
ver.3.4で新規追加!
BPSK(1/2)
QPSK(1/2, 3/4)
16QAM(1/2, 3/4)
64QAM(2/3, 3/4, 5/6)
256QAM(3/4, 5/6)
1024QAM(3/4, 5/6)

 

SINRとスループットの対応テーブルは、下記のリンクレベルシミュレーションの結果にてBER(Bit Error Rate)が0.01以下となるSINRを参考としています。また、自分でテーブルを別途作成することで、上記下記以外の通信方式にも対応可能です。

  • C. Eklund and et al., WirelessMAN : Inside the IEEE 802.16 standard for wireless metropolitan area networks. IEEE Standards Information Network/IEEE Press, first ed., May 2006. Table 14-30: CBLER, DL PUSC, ITU VehA 3 km/h, CC, ideal.
  • D. Vinella and M. Polignano, “Discontinuous reception and transmission (drx/dtx) strategies in long term evolution (lte) for voice-over-ip (voip) traffic under both full-dynamic and semi-persistent packet scheduling policies,” tech. rep., Department of Electronic Systems, Aalborg University, 2009.

以上、「Wireless InSiteを用いたスループット推定のご紹介」でした。

弊社では、レイトレース法を用いた3つの電波伝搬解析ソフトを扱っています。

WirelessInSite」「WaveFarer」では、イメージング法とレイラウンチング法を組み合わせた精緻で高速な計算を、「RapLab」ではイメージング法による厳密な計算を行っています。詳細は各ソフトの紹介ページをご参照ください。

構造計画研究所の電波伝搬に関する解析事例は、以下をご覧ください。

CONTACTお問い合わせ

一般的なシステム開発に加え、物理層からアプリケーション層まで通信システム全般について
お困りの際はぜひ一度私たちにお問い合わせください。