BWAカバーエリアにおけるエリアシミュレーションと測定結果の比較
背景と目的
背景
- ローカル5Gとは、通信事業者以外の企業や自治体等が構築・運用する5Gネットワークである。
- ローカル5Gの導入時に、4Gネットワークを一部利用するノンスタンドアローン(NSA)方式を採用する場合は、NSA用の広帯域無線アクセス(BWA)基地局の免許も併せて申請が必要となる。
- BWAの免許申請では、計算式に建物や地形の影響が含まれないため、免許取得したカバーエリア内であっても特定の場所で通信品質が劣化する等の運用上の課題が生じる可能性がある。
目的
- BWAの免許申請用エリアシミュレーションと測定結果を比較し、差異が現れるケースを考察する。
使用する解析ソフト
- 構造計画研究所では、電波法関係審査基準[1][2]に準拠した免許申請用エリア描画ツール「KCAMP」を開発した。
- カバーエリアシミュレーションには免許申請用エリア描画ツール KCAMPを使用する。
- 測定結果の傾向との比較には、3次元電波伝搬シミュレータ Wireless InSite を使用する。
カバーエリアシミュレーション
- 神奈川県厚木市の社屋内に基地局を配置した。
- BWA免許申請に用いる計算式(拡張秦式ベースの計算式)を用いて、エリア計算を実施した。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 周波数 | 2.585 GHz |
| 送信電力 | 155.74 mW |
| 基地局アンテナ | 無指向アンテナ
最大利得:2.0 dBi 高さ:8.15 m |
| 受信アンテナ | 無指向アンテナ
最大利得:4.0 dBi 高さ:1.5 m |
| アンテナ偏波 | 垂直偏波 |
| 免許申請式 | 拡張秦式ベースの計算式 |
測定条件
- アンリツ社製エリアテスタを背負い、歩行しながら測定データを取得した。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| エリアテスタ | ML8780A |
| 測定アンテナ | Z1911B(2.1/2.6/3.5 GHz帯用) |
| 移動方法 | 歩行 |
測定・解析結果
測定結果
- 敷地内の測定結果とシミュレーションで得られたBWAエリア図を重ねてプロットした。(図3)
- シミュレーションの調整対象区域内でも、測定結果がカバーエリア相当の受信レベルとなる箇所が観測された。(図3-①)
- 同様に、シミュレーションのカバーエリア内であっても、測定結果が調整対象区域相当の受信レベルとなる箇所が観測された。(図3-②)
レイトレース法計算との比較検証
- BWAカバーエリアシミュレーションでは建物データを考慮しないため、レイトレース法の計算結果との比較検証を行う。
- 基地局が設置された建物及び周辺の建物をモデル化し(図4)、レイトレース法により求めたパス電力と比較を実施した。
- エリアシミュレーションで調整対象区域となる点(図3-①)は、電波が建物のガラス窓を透過して高いレベルのパスが届くことが確認できた。(図5(上))
- 同様に、エリアシミュレーションでカバーエリアとなる点(図3-②)は、電波が建物内の構造物に遮蔽されて、低いレベルのパスが届くことがわかった。(図5(下))
まとめ
- カバーエリアシミュレーションと測定結果に差異があることがわかった。
- 建物構造や間取り、壁や窓の材質等によって差異が発生することやその傾向がわかった。
- 免許申請前に、カバーエリアシミュレーションに加えてレイトレース法による電波伝搬シミュレーションを実施することは、最適な基地局設置場所の検討や、運用開始後の通信品質トラブルの回避に役立つ。
- 電波法関係審査基準に基づく計算には、免許申請用エリア描画ツール KCAMP を使用した。
- レイトレース法による電波伝搬シミュレーションには、3次元電波伝搬シミュレータ Wireless InSite を用いた。
参考文献
- [1] 平成13年総務省訓令第67号 電波法関係審査基準
- [2] 令和元年総務省訓令第21号 電波法関係審査基準の一部を改正する訓令
- [3] 坂木啓司, 中村敏明, 藤井誠, 佐々木聖志, 吉敷由起子, ”NSAローカル5Gを構成するBWAカバーエリアにおける免許申請シミュレーションと実測の比較検討”，2021信学ソ大，B-1-12，Sept.2021
